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「何が起きようとわからない」性拷問が続く金正恩の秘密警察

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 昨年1月の国境封鎖以降、深刻な食糧難に瀕している北朝鮮。厳重な国境警備にもかかわらず脱北事件が相次いでいる。

 脱北を取り締まる側である、国境警備を担当する国境警備隊、抑圧体制を末端で支える保衛部(秘密警察)の中から脱北者を出すほど、事態は深刻だ。

 一般国民ならなおさらのことだ。中国との国境に接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市の遊仙(ユソン)労働者区に住んでいた20代女性、キムさんも、脱北に活路を見出そうとした一人だが、悲しい結末を迎えてしまった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 キムさんは幼くして両親を亡くし、妹と二人で暮らしてきたが、コロナ対策の国境封鎖に伴い、生活は苦しくなる一方。先月末、脱北を決心して、国境沿いに近づいたところで、潜伏中だった国境警備隊員に逮捕され、会寧市保衛部(秘密警察)に身柄を移された。

 キムさんは、予審(起訴前の証拠固めの段階)の初日から、予審員と戒護員から激しい暴行を受け、夜になれば彼らから交代で呼び出され、性的暴行を受け続けた。耐えきれなくなった彼女は先月30日、自ら命を絶った。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

 彼女の死について、真相究明、責任追及は一切行われない。

「(当局は)キムさんのように脱北しようとして逮捕された者に対しては、その中(保衛部)で何が起きようが、生きようが死のうが誰もわからないし、責任を問われる者もいない」(情報筋)

 特に、キムさんに妹以外の家族がいなかったことも、保衛部の悪行をより酷いものにしたかもしれない。家族からワイロをせびり、その額に応じて扱いを変えるのは保衛部の常套手段だが、両親がいないということは、その見込みがなく、せびり取るものは「体」ぐらいしかない。

 北朝鮮によるこうした人権侵害や犯罪行為は、ごく一部ではあるが、韓国でデータベース化されている。いずれ訪れるであろう裁きの日に備えてのことだ。キムさんの恨みが晴らされるのは、いつのことになるだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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