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路上で「髪の毛」を要求…北朝鮮女性に忍び寄る魔の手

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の女性(デイリーNK)

「髪の毛を売ってくれないか」

 路上でいきなりそんなことを言われたら、多くの人はギョッとするだろう。しかし、北朝鮮では必ずしもそうではないようだ。人毛を使って製造するカツラは、つけまつげなどと並び、国際社会の経済制裁に抵触せずに堂々と輸出できる製品のひとつであり、海外にはかなりの需要があるようだ。

 ところが、髪の毛を切って渡すだけのはずが、身ぐるみ剥がされる事件に発展してしまったと、デイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:北朝鮮の女囚を苦しめる「拷問人形」と性暴力

 事件が起きたのは、平壌郊外の南浦(ナムポ)でのこと。20代女性のチェさんは、路上で男性から「高く買うから髪の毛を売ってくれないか」と声をかけられた。提示された値段は1000元(約1万7000円)。二つ返事で応じたチェさんは、時間と場所を決め、今月12日に改めて出直した。

 男性からハンカチを手渡されたチェさん。言われるがままにそれを口に当てると気を失ってしまった。麻酔薬が染み込まされていたのだ。意識を取り戻したときには、髪の毛はもちろん、着ていた服までなくなっていたのだ。状況からして、単なる追い剥ぎではなく、性暴力の被害に遭った可能性も考えられるが、情報筋は詳細について言及していない。

 そもそも、チェさんが奇妙な提案に二つ返事で応じた背景には、現在の北朝鮮の経済難がある。昨年1月以降の国境閉鎖、貿易停止で、多くの北朝鮮国民は生活苦にあえいでおり、チェさんも例外ではなかった。そこに差し出された1000元という大金。飛びついてしまうのも無理はないだろう。

 先日来、デイリーNKでも幾度となく報じているが、経済難による犯罪が北朝鮮国内で相次いでいる。

首都・平壌の西浦(ソポ)区域に住む20代の若者が、帰宅途中にオートバイに乗った何者かに棍棒で殴られ、現金100ドルと携帯電話を盗まれる被害に遭った。また、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市の渭淵洞(ウィヨンドン)では、自転車に乗っていた60代男性が、声をかけてきた女性2人に押し倒され、自転車を盗まれる被害に遭った。

 強盗や窃盗事件の多発に、住民の間からは「やぶれかぶれで犯罪に追い込まれるのだろう」との声が上がっているとのことだ。犯罪に手を染めざるを得ないほど、食い詰めた人が少なくないということだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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