北朝鮮北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)では先月28日、地元の党委員会が食糧問題の解決に向けた会議が開かれたが、軍事境界線を挟んで韓国と接する黄海南道(ファンヘナムド)でも、同様の会議が開かれた。

黄海南道は、北朝鮮の代表的な穀倉地帯だ。しかし2012年には、金正恩氏の最高指導者就任の祝いを平壌で大々的に行うために、食糧が根こそぎ持ち去られ、2万人とも言われる餓死者を出す悲劇が起きている。

農民の暮らしはそれほど脆弱であり、当局の出方次第では多くの人々が奈落の底に突き落とされかねない。

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現地のデイリーNK内部情報筋は、朝鮮労働党黄海南道委員会が今月初め、「党、青年同盟(社会主義愛国青年同盟)、職盟(朝鮮職業総同盟)、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、農勤盟(朝鮮農業勤労者同盟)の組織別に、全国の食糧供給の正常化の目標に向けて、義務収買(コメの買い取り)糧政計画を超過達成しよう」という内容の緊急総会を開いたと伝えた。

北朝鮮を代表する穀倉地帯である黄海南道では、田植えの段階から住民の劣悪な食糧事情が緊急課題として浮上し、食糧問題を打開するための緊急会議が繰り返し行われてきた。そして党委員会は、道内のみならず全国的な食糧問題を無条件で解決しなければならないとの目標を掲げ、総会を開いたというものだ。

党委員会は、今年秋の収買、糧政事業を実のあるものとし、食糧問題を全面的に再整備して、全国の食糧問題を解決するために、黄海南道が全国の先頭に立って旗振り役となって前進すべきとの思想をベースに会議を開き、まずは道内の問題から議論を始めた。

会議では、田畑の面積が広く、中でも田んぼが多い黄海南道が、農業部門に力を入れ続け、道に対して下された義務収買、糧政計画を無条件で遂行しなければならないという点が強調された。

同時に、農業部門のイルクン(幹部)と労働者が党に対する忠誠心の尺度を持ち、収買、糧政事業を義務化し、住民に対する愛国米献納運動も積極的に鼓舞し繰り広げるべきだと指摘された。

さらに、来年からは全国の人民に対する食糧供給を正常化し、効果が持続するように、黄海南道の農村が先頭に立って農業部門を代表すべきとの言及もあったとのことだ。

長々と開かれた会議だが、これでは何のことかピンとこない読者も多いだろう。一言でまとめると「協同農場からコメを一粒たりとも漏らさず、国に収めさせよ」ということだ。

北朝鮮の農業は、社会主義計画経済の司令塔である国家計画委員会が決めた農業生産計画に基づき、各地域、農場にどれくらいの作物を生産するかのノルマを割り振る。それは自然災害や肥料などの不足による不作を考慮していないもので、秋の収穫後にノルマ通りに穀物を国に収めてしまえば、農民の手元にはほとんど残らない。

また、貧しい農民はトンジュ(金主、新興富裕層)から、現金の代わりに穀物で借り、それで必要な営農資材を買い込んで農作業を行い、秋の収穫後に利子を付けて返済するのだが、国にすべて取られてしまえば、食い扶持の確保はもちろん、借金の返済にも息詰まる事態となる。

そこで、穀物を渡すまいとする農民と、一粒でも多く持ち去ろうとする当局の間で、トラブルとなるのは毎年のことだ。今回の会議で決められたのは、各組織まで動員して、「コメの収奪に力を入れよ」「さらに愛国米の形でもっと差し出させろ」ということに他ならない。

農民から奪い取った穀物は、国家食糧販売所を通じて販売する計画だったが、うまくいっていないようで、依然として禁止したはずの市場での穀物取引が行われているのが現状だ。

そんな状況で次々に示された机上の空論に対して、会議に参加したイルクンたちからは疑問の声が噴出している。

「総会の思想はいいかもしれないが、生産量が不足している現実で収売、糧政事業、愛国米献納運動は毎年実現できず、国から指摘を受けている」(会議参加者の声)

また、軍向けの軍糧米の確保もまともにできておらず、全人民に対する食糧供給の問題は時期尚早ではないかと半信半疑のイルクンも多かったという。

直面した食糧危機は海外からの輸入でしのぐとしても、今後の食糧安定供給のためには、農民のモチベーションの向上、肥料や営農資材の潤沢な供給、無理のない収買、現実的な計画立案など課題山積だが、参加者の声を聞く限りは、そんな現実的な問題は話し合われなかったようだ。かくして、餓死者が出るほどの状況は悪化の一途をたどるばかりだ。

黄海南道において、2012年の悲劇が再現される可能性はないとは言い切れないのだ。