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女子高生を惨殺「金正恩のボディーガード」の鬼畜行為

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

今年3月、北朝鮮北東部の山奥の村で、女子高生が殺害される事件が起きた。その残忍な手口に加え、犯人の正体が明らかになり、地域社会に衝撃が走っている。

事件が起きたのは、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の明川(ミョンチョン)。核実験場があった吉州(キルチュ)郡の豊渓里(プンゲリ)から、山を一つ隔てたところにある。

郡の安全部(警察署)近隣のマンションの近くで3月28日夜、帰宅途中だった17歳のヤンさんが、男に襲われ性暴力を受けた。彼女は大声で助けを求めたが、それに逆上した犯人によって惨殺された。

しばらくして逮捕されたのは、20代のリ容疑者。兵役中に974部隊に勤務していたことがわかり、地域住民に衝撃が広がっている。

同部隊は金正恩総書記の警護にあたる超エリート部隊であり、配属には思想や成分(身分)に問題がないことが求められるのはもちろん、一時帰宅はおろか家族への連絡すら許されていない。2018年4月の南北首脳会談で、金正恩氏の車の周りを囲み並走しつつ警護していたのが、この部隊のメンバーだ。

(参考記事:【写真】金正恩の処刑命令を実行する「巨漢兵」たちの正体

しかし、彼はその「晴れの場」にいなかった。2015年5月に生活除隊させられたからだ。何らかの問題を起こして、不名誉除隊の処分を受けたということだ。

通常の部隊に勤務していて生活除隊で戻ってきた者は、村の人々から白い目で見られるにとどまらず、社会生活を送るに当たっても様々な不利益が生じる。だが、最高指導者と会ったことがあるというだけで「謁見者」として特別扱いされるお国柄だ。金正恩氏の警護に当たっていた彼は、生活除隊であっても逆に特別扱いされ、待遇の良い職場に配属された。

しかし、彼が本性を現すまでにそう時間はかからなかった。故郷に戻った2015年のうちに、職場の同僚に性暴力を振るい、6ヶ月の労働鍛錬刑(懲役刑)を受けた。2017年にもまた同様の事件を起こし、1年5ヶ月の教化刑(懲役刑)を受けた。

そして今回の事件。情報筋は、判決について触れていないが、銃殺などの極刑ではなく、比較的軽い刑で済まされる可能性もなくはないだろう。問題のある人物なのに、超エリート部隊に入隊できたのは、強力なコネと財力を持った家族の出であることが考えられるからだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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