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北朝鮮「ギリギリで生きてきた女性兵士」が最後に迎えた悲劇

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

最近、軍の食糧確保の一部を担う「副業地」の農作業に投入された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士らの事件・事故の情報が相次いで伝えられている。

多いのは、除隊を控えた兵士たちが、帰郷後の生活に備えてお金を作るため、現地住民の個人耕作地から農作物を盗んだという事件だ。しかし今回は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市に駐屯する高射銃部隊所属の女性兵士2人の悲劇が伝えられた。

現地の消息筋は4日、韓国デイリーNKの電話取材に対し、「事件は12月初めある日の夜から朝にかけて、兵士らが副業地の収穫物を守っていた間に起きた」と話した。

この日、彼女らの同僚の兵士らは冬季訓練の準備のため帰隊し、2人だけが同市の青岩(チョンアム)区域にある副業地に残っていた。彼女らの部隊は、食用油の原料とするためのヒマワリの種の豆類を生産していたが、今年の成果はまずまずで、その場には収穫物が山と積まれていた。

食糧難に苦しむ北朝鮮軍では、兵士らによる窃盗が絶えず、収穫物を放置すればあっという間に無くなってしまう。そこで、女性兵士2人が残って寝ずの番をすることになったのだ。

北朝鮮北部の清津は、夜間の気温が摂氏0度を軽く下回る。しかし、北朝鮮軍の耐寒装備は貧弱だ。与えらえたのは、アルコール度数40度の焼酎だけである。彼女らはそれを飲みながら焚火に当たっているうちに眠り込んでしまった。

すると、焚火の火の粉が油分を豊富に含んだ収穫物に引火し、あっという間に大きな火柱を上げた。翌早朝の沈下後、焼け跡からは2人の無残な焼死体が見つかったという。

ちなみに、同じ清津市に駐屯する部隊に所属し、農作業に駆り出されていた女性兵士らについて消息筋は6月、次のように伝えている。

「女性兵士らは栄養失調でやつれ、ほとんど『骨と皮』だけに近い状態だったようだ」

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

駐屯する地域が同じであれば、今回の犠牲者たちもこれと似たような「ギリギリ」の状態だったと推察される。

米朝の対話が不調となる中で、北朝鮮情勢は再び緊張の色を濃くしているが、北朝鮮軍の実態はと言えばこのようなものなのだ。また、消息筋は次のように語った。

「事故後、30歳にもならない若い連隊長が出て来て事態を処理した。耐寒装備もなく、火に包まれて死んだ女性兵士らのことなど眼中にもなく、収穫物が焼けてしまったことにひたすら憤っていた」

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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