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法相就任「悩んでみる」…妻起訴の文在寅側近、緊迫の一問一答

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
チョ・グク氏(写真:ロイター/アフロ)

韓国のソウル中央地検は6日深夜、次期法務部長官(法相)候補に指名されたチョ・グク青瓦台(大統領府)前民情首席秘書官の妻を私文書偽造の罪で起訴した。慶尚北道(キョンサンブクト)にある東洋大学で教授を務める妻は、娘が2014年に釜山大学大学院に進学する際、東洋大学の「総長賞の表彰を受けた」と記入した履歴書を提出したとされる。しかし、同大総長は検察の調べに対し、「表彰状を与えたことはない」と証言している。

検察は、妻に対する取り調べもなく電撃的に起訴した。嘘の履歴書が作成された時期が2012年9月7日と特定されており、私文書偽造罪は時効が7年となっているためだ。

世論の反発にも関わらず、文在寅大統領はチョ氏の任命を強行すると見られていたが、起訴を受けていっそう困難になったと言える。何よりも、これまで強気で押し通してきた本人に「弱気」が見え始めた。

6日に開かれた国会の聴聞会でチョ氏は、妻とともに総長に電話をしたことも認めている。・その点を追及した自由韓国党のチャン・ジェウォン議員とのやり取りでは「(法相就任)を悩んでみる」と漏らしたのだ。緊迫のやり取りを、以下に再現する。

議員  夫人の起訴が迫っているという記事を読みましたか?

チョ氏  知りませんでした。

議員  起訴が迫っているという記事が出て、記者たちが中央地検に集まっているという話です。仮に夫人が起訴された場合、法務部長官 (任命)を受け入れられますか?

チョ氏  悩んでみます。

議員  悩んでみるということは、辞退の可能性もあるという意味でしょうか?これは前代未聞のことです。法務部長官候補者の夫人が起訴される。犯罪容疑は私文書偽造で、公訴時効のために調査なく起訴するというスクープ記事が出ているんです。

チョ氏  仮定なのでお答えできませんが、私はまだ(妻に対する検察の)召喚調査(取り調べ)がないものと認識しています。

議員  言うまでもないことですが、夫人は毎日、いっしょに暮している人なのに、検察に召喚されて、他の嫌疑についても追加で起訴されるとか、そのような事態が起きたときに、法務部長官に任命された場合に、果たして検事たちがまともに捜査を行えるのか。たと  えまともな捜査が行われたとしても、果たして国民がその捜査結果を信じるだろうか。心配になります。

チョ氏  それについては、予断で発言しない方が良いと思います。

議員  (辞退を)考慮してみますか?悩んでみますか?

チョ氏  お答えしないのが適当だと思います。

議員  容疑が私文書偽造ならば、夫人は証拠隠滅の疑いが加わる可能性が相当高いです。(総長に)電話をして、(大学の)研究室から コンピュータを持ち出しています。電話をしたという部分で納得できないのは、本人について不利な証言をしている参考人に電話をするというのは、そこで何を言ったにせよ、納得できる話でしょうか。常識的に。

チョ氏  職場のいちばん上の上司に、状況把握のために電話したとお話ししました。

議員  候補者は法律家なんですよ。よく考えてください。(夫人は)被疑者なんです。被疑者が、職場で上司であるというのとは別に、(総長は)証人なんです、参考人なんです。その人に電話をした。13回電話をして2回だけ通じて、文字(メッセージ)まで送った。これは、その内容が何であれ、国民が疑わざるを得ない。懐柔、脅迫ではないかと。もっとも、上司を脅迫できるかということもありますが、ものすごく疑わしい。

チョ氏  先ほど文字(文書?)でも出ましたが、まったく懐柔でも脅迫でもないことは、すでにご承知のはずです。

議員  夫人としてはそうだったとしても、あなたは法務部長官候補者なんです。そして法曹なんです。夫人が興奮して電話したとしても、ダメです、止めなさい、といって切るべきでしょう。その電話に代わって出て、夫人の考えを説明したのですか?あまりに驚くべきことです。「妻が興奮していまして」という話だったかもしれませんが、聞く側の心境を考えてください。あなたは法務部長官候補者なんですよ。

チョ氏  チャン議員のご指摘は理解できます。しかし、当時の状況は、特別に罪を犯す考えがあったわけではなく、あの時点では、電話を切る前にあいさつをし、申し訳ない気持ちを伝えるのが人としての道理だと思ったのです。

チョ氏は文在寅政権を支える学生運動出身グループの中でも中核的な存在で、任命が挫折すれば、政権に対する国民の信頼度がさらに落ち込むのは避けられない。と言って、この局面をさらなる嘘や言い逃れで切り抜けようとしても、結果は同じだ。文在寅政権が、発足以来最大の危機を迎えようとしているのかもしれない。

(参考記事:「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激的な中身

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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