北朝鮮「国境警備隊」の秩序崩壊…密輸が難しく窮地に
1400キロにも及ぶ中朝国境。その警備を担っているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の国境警備隊だ。
かつては、脱北や密輸、人身売買の幇助を組織的に行い、財政的に豊かだと知られていたが、金正恩党委員長が脱北に対して射殺を含む厳しい措置を取るよう指示して以降、状況が一変した。また、中国側の国境警備も非常に厳しくなり、かつてのような脱北や密輸は難しくなっている。
(参考記事:中国奥地で売られた「少女A」の前に現れた救世主)
そんな中で、上官から密輸への加担を強いられた国境警備隊の兵士が脱走する事件が起きたと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が報じた。捜索が始まっているが、「既に脱北したのではないか」という見方が示されている。
事件が起きたのは今月12日のことだ。国境警備隊の某旅団に所属するハン兵士が、部隊から脱走を図った。
ハン兵士は、上官にあたる中隊長と政治指導員に密輸の片棒を担がされていた。しかし、苦労ばかりさせられ、報酬をもらえない上に、上官2人が自分が苦労して稼ぎ出したカネを湯水の如く使っていたのを見て、恨みを抱くようになったようだ。
脱走の経緯は明らかにされていないが、中隊の保衛指導員(上尉=中尉と大尉の間の階級)が陣頭指揮を取り、ハン兵士の逮捕作戦に乗り出した。指揮部は必ずや捕まえてみせると強がっているが、2週間経っても手がかりすらつかめない上に、場所が場所だけあって、脱北して中国に逃げ込んだのではないかと懸念する空気が広がっているという。
みすみす部下の脱北を許したとなると、上官もタダでは済まされない。それを避けるための必死の逮捕作戦なのだろうが、一方で指揮部にはそんな不安を打ち消すかのように「この地にさえいれば問題ない」との空気も流れているという。この地とは、北朝鮮国内のことだ。
このように、上官の不当な扱いに不満を抱き脱北する事例は時々発生している。
今年6月の、中国の習近平国家主席の訪朝直前というピリピリしたムードの中で、両江道の金正淑(キムジョンスク)郡に駐屯する国境警備隊の兵士が、夜間勤務中に脱走した。脱北したのではないかと大騒ぎになったが、翌朝になって戻ってきた。
また、今年5月には国境警備隊25旅団3中隊の政治指導員が主導して行った密輸が摘発され、6月には同じ25旅団の1中隊の政治指導員が、朝鮮労働党の大紅湍(テホンダン)郡副委員長の息子ら3人の脱北の手引を行っていたが、部下の副中隊長に発見され、3人は隊員に射殺されるという事件が起きている。この政治指導員は、金正恩党委員長の指示に背いた容疑で、銃殺刑に処せられると伝えられていたが、その後の処遇は不明だ。
軍以外でも、密輸に手を染め、バレそうになったらその責任を部下になすりつけようとする事件が起きている。
両江道のある地域の地方政府に勤める下級幹部が、地元の朝鮮労働党委員会責任書記(地方のトップ)らに、地元の名産品である松の実の密輸を持ちかけられた。借金でクビが回らなくなっていた下級幹部は、密輸を請け負うことにしたが、輸送途中に事故が起きて、松の実がだめになってしまった。
その責任をすべて負うことになった下級幹部だが、密輸未遂が当局の知るところとなった。追手が迫るや、上級幹部は「下級幹部が密輸で儲けて韓国旅行をしようとしていた」という荒唐無稽な話をでっち上げて、罪をなすりつけようとしたのだ。身の危険を感じた下級幹部は、家族をおいて中国に逃げてしまった。