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中国で猛威を振るうアフリカ豚コレラ、北朝鮮でも発生か

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

家畜伝染病の「アフリカ豚コレラ」。元々はサハラ以南のアフリカにしかない感染症だったが、2007年にジョージア(旧グルジア)に侵入、ヨーロッパ全体に拡散後、去年8月には中国遼寧省で発生して全土で猛威を奮っている。

ヒトには感染しないものの、汚染された豚肉製品に長期間ウイルスが残留し、新たな感染源となりうる。致死率は100%に近く、治療法、予防法は確立されていないため、発生が確認された地域では、周辺の養豚場を含めて予防的殺処分で対処するしか方法がない。(※日本で発生している「豚コレラ」とは別のもの)

この恐ろしい豚の感染症が北朝鮮国内でも拡散しているもようで、当局は豚肉の販売を禁止した。ちなみに、金正恩党院長は豚肉の増産を指示してきた。

(参考記事:金正恩氏の「ブタ工場視察」に北朝鮮庶民が浴びせる酷い悪口

現地のデイリーNK情報筋によると、豚の感染症は今年2月ごろに平壌郊外の兄弟山(ヒョンジェサン)区域、勝湖(スンホ)区域で発生し、民家で飼育していた豚が次々に病死している。アフリカ豚コレラと思われるが、公式確認はされていない。

当局は2月末から豚肉の流通と販売を禁止したが、監視の目を盗んで密売されている。また、安いからという理由で病死豚肉を買う人も多いと情報筋は伝えた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、道内の亀城(クソン)で今年2月ごろから豚の熱病が広がったと伝えたが、以前に流行した別の感染症と比べて症状はひどくないという。

アフリカ豚コレラはダニや感染畜等との直接的な接触により感染するが、北朝鮮国内では事実とは異なる「空気感染説」が広がっている。

国連食糧農業機関(FAO)は15日に発表した「食料安全保障と農業に関する早期警報、行動レポート」で、北朝鮮をアフリカ豚コレラによる家畜の健康がリスクにさらされているという「ハイリスク」国家に指定した。ただし、実際に発生したかについては言及していない。

昨年末、FAO関係者が平壌で、北朝鮮の農業省、農業科学院などの関連機関の担当者とアフリカ豚コレラの診断能力の強化とウイルス拡散への対応の必要性などについて議論を交わしている。

しかし、感染症に対して充分な対策を取る余裕がない北朝鮮は、上述したようにすべての豚肉の流通を禁止するなど、神経質な対応をすることを対策の代わりとしているようだ。

2014年に西アフリカでエボラ出血熱が大流行したとき、北朝鮮では発生地から遠く離れているのに、外国人観光客の入国を禁止とし、帰国した自国民も21日間隔離した。

(参考記事:「隔離されてもワイロを渡せば自由に」 今なお穴だらけの北朝鮮エボラ対策

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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