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少女たちまでが狙われて…なお続く北朝鮮女性の人身売買

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

米国務省は6月28日、世界各国で行われている人身売買の実態をまとめた年次報告書を発表した。同報告書は北朝鮮について「人身売買撲滅に向けた最低限の水準を満たしておらず、取り組みもしていない」と指摘し、4段階評価のうち最低評価に据え置いた。北朝鮮は16年連続で最低評価だ。

この日の会見でポンペオ国務長官は、「無数の北朝鮮国民が北朝鮮政府により、海外で強制労働に服せられている」と批判した。

一方、中国も昨年に続き下から2番目の評価だった。国務省は、脱北した北朝鮮女性が中国で売春や結婚を強要されていることや、当局が人身売買被害者を北朝鮮に強制送還していることを問題視している。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

国務省は2016年の報告書でも、この問題を指摘している。同年の報告書によれば、中国に脱出した人のうち、1万人に達する女性が強制結婚、望まないセックスワーク、家事労働などで苦しめられているという。これは成人女性に限った話ではなく、幼い少女たちも犯罪者たちに狙われている。

(参考記事:ねらわれる少女たち…脱北者の性犯罪被害が深刻

北朝鮮当局からすれば中国国内の脱北者など「体制の裏切り者」に過ぎず、「中国が脱北者を煮て食おうが焼いて食おうが、どうぞご勝手に」というのが本音かも知れない。

しかし、脱北者を生み出す背景には、北朝鮮の過酷な人権侵害と国民不在の政治がある。国民の人権と生命を守ることは国家の基本的な義務だ。それを怠っていることが、脱北者を生み出す最大の要因だ。そういう意味では、北朝鮮当局、そして金正恩党委員の責任は明確だ。

それにしても、中国における北朝鮮女性の人身売買はいつまで放置されるのだろうか。国際社会は北朝鮮の人権侵害を非難し続けているが、恐怖政治に依存する金正恩氏は、今後もしばらくは姿勢を正そうとしないだろう。

だが、米国や日本が中国を締め付けるならば、何らかの効果を期待できるのではないか。中国は北朝鮮ほど閉鎖的ではなく、自国のイメージ管理にも慎重だ。

トランプ氏は今年2月にホワイトハウスに脱北者を招いた際、北朝鮮女性の人身売買を自分が「止めさせる」とまで宣言した。そのための努力を開始するならば、国際社会はトランプ氏を少なからず見直すだろう。支持率のためでも何でも良いから、一日も早く、トランプ氏に行動してもらいたいものだ。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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