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金正恩氏は「薬物中毒」「性びん乱」を止められるか

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮の金正恩党委員長は1日、施政方針演説「新年の辞」で次のように述べた。

「社会主義文化を全面的に発展させなければなりません。(中略)

全社会的に道徳と規律を強化し、社会主義生活様式を確立してあらゆる非社会主義的現象を根絶やしにするための戦いを力強く繰り広げ、すべての人々が高尚な精神道徳的姿勢をもって革命的かつ文明的に生活するようにすべきです」

一見、何ということのない「お説教」である。しかし、金正恩氏が昨年12月に行われた朝鮮労働党の大会において、強い調子で「非社会主義的現象の害毒作用」に言及していた経緯を踏まえると、見え方が違ってくる。

非社会主義的現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。

しかし実際のところ、北朝鮮には社会主義の気風などほとんど残っていない。1990年代に計画経済と配給システムが崩壊したために、その後はなし崩し的に市場経済化が進行。その過程で、売買春や薬物の乱用が、資本主義国も真っ青な勢いで蔓延した。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

とくに深刻なのが、薬物の乱用だ。北朝鮮で最も多く乱用されている薬物は覚せい剤だが、売人たちは「トンジュ」(金主)と呼ばれる富裕層に狙いを定め、「夜の生活(性生活)が強くなる」「痩せる」「頭がスッキリする」などと甘い言葉で誘い、覚せい剤を売りつける。中毒にさせて、常連客にするのである。

日本では最近、男性芸能人が女性と一緒に薬物を使おうとしたところを摘発された事例が目立っているが、北朝鮮においても似たようなことが起きているのだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

金正恩氏は再三にわたり、薬物取り締まりの強化を指示しているが、顕著な成果が上がったとする情報は今のところ届いていない。

今年もまた、同じような取り組みを進めるのだろうが、果たしてどれだけ成果が上がるかは疑問である。

(参考記事:「男女関係に良いから」市民の8割が覚せい剤を使う北朝鮮の末期症状

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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