押し寄せる「北朝鮮団体客」に頭を抱える中国の銭湯経営者
朝鮮半島には昔から銭湯文化が存在するが、乾燥した気候のため、普段は行水などで済ませ、時々銭湯で垢すりをするのが一般的だ。
ちなみに北朝鮮にはトンジュ(金主、新興富裕層)が経営するスーパー銭湯があるのだが、どういうわけか不倫や売春の現場、つまり、事実上の「ラブホテル」と化しているという。
(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに)
一方、中国の北京や東北地方は、昔から銭湯(澡堂、浴池)を楽しむ文化が存在した。単に体を洗うだけにとどまらず、昼寝をしたり、お茶を飲みながらおしゃべりに興じたり、将棋を指したりするコミュニティスペースとしての機能を兼ね備えている。
そんな中国の銭湯が、押し寄せる北朝鮮労働者との闘いに明け暮れているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
同情する経営者も
丹東の情報筋によると、北朝鮮労働者は月に1〜2回、100人ほどの集団で銭湯にやって来る。大人数とあって、おとなしく入浴するとしてもかなりの大騒動となるが、彼らは「入湯料を団体割引しろ」と値段交渉を始めたり、洗濯を始めたり、備え付けのシャンプー、石鹸などを盗んだりとやりたい放題だ。
また、100人の客が一度に水を使うため、水道施設が耐えられずに故障してしまうこともある。
中国人客は、北朝鮮労働者の姿を見るや一斉に逃げ出してしまう。中には彼らの入浴を断る銭湯もあるが、多くは頭を抱えつつも受け入れているようだ。北朝鮮労働者を雇っている中国企業は、被害を弁償して問題を穏便に済ませようとする。
彼らがやって来るのは1ヶ月に1〜2回。丹東郊外の寛甸満族自治県の銭湯経営者は、トラブルを避けるため、北朝鮮労働者は通常営業終了後の午後10時以降に事前予約があった場合に限り団体で受け付けているという。
この経営者は、北朝鮮労働者の気の毒な状況に理解を示している。彼らの働く工場や寄宿舎には入浴施設がなく、郊外にあるため気軽に行ける銭湯もない。さらに中国人にとっては大した額ではない10元(約170円)も、彼らにとってはかなりの大金なので7元(約120円)にまけてあげるとのことだ。
海外に派遣されている北朝鮮労働者が置かれた過酷な労働環境は、国際的にも大きな問題になっている。
(参考記事:アキレス腱切断、掘削機で足を潰す…北朝鮮労働者に加えられる残虐行為)
しかし、こうした光景も間もなく見られなくなるかもしれない。
中国政府は、国連安全保障理事会で採択された制裁決議履行の一環として、北朝鮮との合弁企業の閉鎖を命じ、北朝鮮労働者の就労ビザの延長を行わないことを決めた。それを受けて金正恩党委員長は「年末までに、中国にいるすべての労働者とレストラン服務員(従業員)を撤収させよ」との命令を下したという。