「性拷問を受けた」との主張も…北朝鮮が拘束の外国人
北朝鮮当局に昨年身柄を拘束され、今週になり昏睡状態で釈放された米国人学生オットー・ウォームビア氏(22)の治療チームが15日に記者会見し、同氏が昨年3月の判決直後に昏睡状態に陥ったのは「ボツリヌス中毒症のため」とした北朝鮮側の主張を事実上、否定した。
治療チームによれば、同氏にはボツリヌス中毒症の形跡は見られないという。また、脳に広範囲にわたる損傷がみられるものの、その原因はまだ不明のままだと発表した。
「ビデオ撮られた」
北朝鮮を観光中に拘束されたウォームビア氏は、ホテルから政治スローガンの書かれた掲示物を盗んだことが「反共和国敵対行為」に当たるとされ、昨年3月の裁判で15年の労働教化刑(懲役)を言い渡されていた。
同氏に対する北朝鮮側の扱いについて言えば、そもそもこうした容疑の「筋立て」自体があり得ないものだ。同氏は昨年2月29日、北朝鮮当局が開かせた記者会見で次のように「告白」していた。
「(米国の教会関係者が)わたしに、北朝鮮の重要な政治スローガンを一つ取って来れば、それを自分の教会堂に『戦利品』として掛けておくと言った。
スローガンをなくして北朝鮮の人々の団結と情熱を弱化させ、西側によってこの国が侮辱されるのを見せつけなければならないとした。
成功すれば1万ドルの中古乗用車1台を与えると言った。
捕まって帰れない場合、教会がわたしの母に慈善形式で20万ドルを与えるとした」(朝鮮中央通信)
世の中には物好きが多いとは言え、北朝鮮のポスター1枚に1万ドルだとか20万ドルだとかの値を付けるなど、ちょっと考えられない。また米国人が、ポスターをはぎ取ったらそれで「北朝鮮の人々の団結と情熱を弱化させ」られると想像するなど、いっそうありそうもないことだ。
これと似たような話は他にもある。
中朝国境地帯では2013年から、韓国系の宣教師らが姿を消し、間もなく北朝鮮の平壌で「スパイ行為を働いた」などと告白会見をさせられる事件が相次いでいる。たとえば2015年7月30日には、韓国系カナダ人牧師のヒョンス・リム氏が会見。「北の体制を覆し、宗教国家を建てるための拠点を築くため」18年間にわたり入国を繰り返してきた、などと話した。
しかし、世界でも最も過酷な思想統制を行ってきた北朝鮮で「宗教国家」をつくるなど、あまりに荒唐無稽なストーリーだ。では、北朝鮮に拘束された外国人は、どのようにしてこのような「作り話」をしゃべらされてしまうのだろうか。
北朝鮮当局は、自国民に対し無慈悲な拷問を加えることで知られる。
(参考記事:刑務所の幹部に強姦され、中絶手術を受けさせられた北朝鮮女性の証言)
しかしさすがに、会見に引っ張り出される外国人が、凄惨な暴力を振るわれたとの情報はない。ただ、かつて北朝鮮に43日間に渡って拘束された韓国系米国人が、「性拷問」のビデオを撮られ、それを公開すると脅されたと証言したことはある。
(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家)
いずれにしても、北朝鮮に拘束された外国人はまともな弁護士の支援も受けられず、自国外交当局との接触もなかなかさせてもらえない。北朝鮮国民が拘束された場合とは異なるとは言え、相当な心理的圧迫を受ける。
そしておそらく、北朝鮮当局は外国人を完全な心理的屈服に追いやるノウハウを備えているはずなのだ。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)