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韓国で生じかねない金正恩「斬首作戦」の誘惑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
殺人訓練を受ける韓国陸軍特殊戦司令部

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は22日、外務省と国防省、統一省は大統領府(青瓦台)から2016年の外交・安保・統一分野の合同業務報告を受けた。昨年の同報告では朝鮮半島の「統一」への備えが最重要テーマだったが、今年は北朝鮮の4回目核実験を受け、北朝鮮の核開発と安全保障問題が最優先課題に挙げられた。

3省は具体的には、◆北朝鮮の挑発に対する全方位かつ総力を挙げての対応◆北朝鮮核・北朝鮮問題に対する総体的なアプローチ◆外交安保の環境変化の能動的、戦略的な活用◆国民、国際社会とともに正しい統一準備の持続――などを重点的に推進すると報告した。

この中の、「北朝鮮の挑発に対する全方位かつ総力を挙げての対応」という部分を見て思い出されるのが、昨年取り沙汰された韓国軍の金正恩「斬首作戦」だ。

(参考記事:金正恩氏の「斬首」に動きだした韓国軍

北朝鮮は、すでに実質的な核武装国だ。また、軍事境界線近くには韓国の首都・ソウルを射程に収める長距離砲部隊が展開している。仮に、朝鮮半島で全面戦争が勃発すれば、最終的に米韓連合が勝利するのは間違いない。しかし、緒戦でソウルを「火の海」にされれば、韓国経済が甚大なダメージを受けるのは避けられないだろう。

それを防ぐために、「北朝鮮が戦争を決断する前に、先制攻撃で制圧してしまおう」との考えが韓国国内で頭をもたげるのは、むしろ必然とも思える。

そんな作戦には膨大なリスクが伴うことから、そう簡単には実行されないだろう。しかし、仮に北朝鮮が「最終兵器」とも言える水素爆弾の開発を進展させれば、そこで生じるリスクは甘受しがたいものになる可能性がある。

(参考記事:金正恩氏は「最終兵器」を手に入れるのか

そして、核のリスクが増せば増すほど、「先にどうにかしてしまおう」との誘惑も強まる。情勢がそんな極端な方向に流れないことを願うばかりだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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