北朝鮮がテロ渦中にあるチュニジアへの「祝電」を敢えて報じた理由
北朝鮮の朝鮮中央通信は20日、憲法上の国家元首である金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と朴奉珠(パク・ポンジュ)内閣総理が同日、チュニジアの独立記念日に際しセブシ大統領とシド首相にそれぞれ「祝電を送った」と報じた。18日に発生したテロ事件には言及していない。
チュニジアの独立記念日を巡っては、在日大使館が恒例の式典を中止するなど自粛ムードが漂っており、「祝電報道」の間の悪さは否めない。
いくら北朝鮮が閉鎖的であると言っても、外務省や報道の担当者ならば、世界で何が起きているかはわかる。
それに北朝鮮も、友好国の受けたテロ被害に対しては無頓着ではない。リビアで武装勢力「イスラム国」(IS)の分派組織がコプト教徒のエジプト人21人を殺害した際には、金永南氏がエジプトのシシ大統領あてに慰問のメッセージ(電報)を送っている。
なのになぜ、今回は敢えて、間の悪さを顧みずチュニジアへの「祝電」をおおっぴらに報じたのか。
実は、北朝鮮メディアは世界の出来事を細かく報じない一方、友好国の独立・革命記念日にはかならず同様の報道ってきた。そうすることで、自分たちは孤立していない、理解者や仲間がいるのだ、ということを国民や諸外国に向けて誇示してきたのだ。
そしてとくに、アフリカや中東のアラブ・イスラム諸国は北朝鮮にとって、きわめて大事な存在と言える。
たとえば、北朝鮮国防委員会の金正恩第1委員長は4日、シリアの「3月8日革命」から52周年に際し、同国のバッシャール・アル=アサド大統領に祝電を送っている。
また、アサド大統領はこれを受けて北朝鮮の代表団と会談。「テロとの戦いにおけるシリアへの支援」に対して、北朝鮮指導部と北朝鮮の国民に感謝の意を表したという。
アサド大統領の言う「テロとの戦い」とは、欧米に支援された反政府勢力や武装勢力「イスラム国」(IS)と三つどもえの戦いのことだ。
世界でも重大な人権侵害国家として知られる北朝鮮とシリアは、武器取引などを通じて太く結び付いているのだ。
ちなみに宮本悟・聖学院大学基礎総合教育部特任教授によれば、北朝鮮がアラブ諸国の信頼を勝ち取ったのは金日成主席の統治時代のことだという。一般にはほとんど知らないが、金日成はアラブ諸国に加勢して第4次中東戦争に自国の戦闘機パイロットを送り、イスラエル空軍との実戦に臨ませていたのである。