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“ポスト錦織圭"育成だけではない。日本男子テニス界が直面している重要な問題とは!?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
日本テニス協会専務理事の福井氏(右)と日本代表新監督の岩渕氏(写真/神 仁司)
日本テニス協会専務理事の福井氏(右)と日本代表新監督の岩渕氏(写真/神 仁司)

2017年度に入り、公益財団法人日本テニス協会は、専務理事に福井烈氏(59歳)を、そして、男子国別対抗戦デビスカップ・日本代表の新監督に岩渕聡氏(41歳)を任命して、新しいスタートを切った。

「今まではテニスの、普及、強化の2本柱でしたが、そこに育成を入れて、普及、育成、強化、このつながりと道筋をしっかりつくって、多くの選手を輩出できるようにしたい。あるいは、多くの子供達がテニスに携われるような環境を作っていきたい」(福井氏)

今回、41歳で代表新監督に就任した岩渕氏は、日本代表経験もある元プロ選手で、日本テニス協会公認S級エリートコーチの資格を持ち、JOCナショナルコーチアカデミーを修了している。また、デビスカップ日本代表チームのコーチを2010年から2015年まで務めた。ただし、プロツアーでの指導者として、プロテニス選手を育成した実績はない。

現在は、日本オリンピック委員会平成27年度スポーツ指導者海外研修員として、2018年2月までアメリカ・ロサンゼルスにて留学中であり、まさに指導者としては、これからという人なのだ。

「今男子テニスが強くなってきていて、錦織がトップにいて層も厚くなってきている。その流れを引き継ぎたい。若い選手見て行きたい。まずは、9月のデビスカップ(ワールドグループプレーオフ・ブラジル戦。ワールドグループ残留がかかる)で、いい戦いができるよう、いいチームができるように進んでいきたい」(岩渕氏)

若い人材が中心になって、新体制に臨むのは大歓迎なのだが、おそらく今回のデビスカップ新監督の人選は難しかったように思える。つまるところ人材がいないのだ。本来なら40代半ばから後半の年代の人物、例えば、49歳の松岡修造氏が監督になっても、順番としてはおかしくないのだが、周知のとおりタレント活動が忙しい。そして、ワールドプロテニスでの指導者としての選手を育成した実績がないのは、松岡氏も岩渕氏と変わらない。

福井氏がキーワードに挙げた“育成”と“強化”。とかく選手の育成と強化に目がいきがちだが、”ポスト錦織圭”の育成には優れた日本人指導者がいなければ、実現不可能なことだ。

問題は、明らかにプロツアーで通用する日本人指導者が不足している現状だ。

「とても大切なところで、日本にはたくさん優秀な指導者がおられます。どの年代のコーチングに長けているか把握しなければいけない。どれだけ優秀な指導者いるのかという『指導者マップ』にとりかかっている」(福井氏)

「コーチにはそれぞれの分野があって、たとえいいコーチでも間違ったタイミングで選手につくと、選手もコーチも力を発揮できなかったりする。いい人材だったり、勉強されている方はたくさんいますので、誰にどのタイミングでつけて協力してもらうのが一番いいとか、そのあたりはしっかり把握したい。コミュニケーションを多くの方ととって、ナショナルチームに留まらず、いろんなコーチの意見も聞きながらやっていきたい」(岩渕氏)

両氏はこのように語ったが、一般愛好者のテニスコーチではなく、あくまでもプロツアーのレベルでの話でいうと、どうも世界の日本のプロコーチのレベルが、海外プロコーチのレベルと比べて低いことへの認識が甘いように思える。コーチも、プロテニスツアーでの結果がもっと問われるべきではないだろうか。

現在、ごく少数の日本人コーチが、日本選手とプロツアーを帯同しているが、顕著なのは外国のトップ選手から日本人コーチにプロツアーを一緒に転戦してほしいというリクエストもなければ実績もないことだ。

そして、元選手やコーチの肩書をもつテレビ解説者は、このとても大事なことを一切批評しようとしない。中には、日本テニス協会公認S級エリートコーチの資格を取得したことで満足してしまっているようなコーチも見受けられる。

プロテニスコーチならば、プロツアーに定着して活躍できるプロ選手を育てたかどうかが一番重要なのであり、“選手を育ててなんぼ”、であるべきだ。

錦織圭(ATPランキング7位、4月24日付け)は、すでに27歳になり、プロ10年目に入ったが、今シーズンはけがや故障に悩まされている。

この10年で錦織が残してきた功績には感謝しかない――。

10年前には、日本男子プロテニス選手は、世界のトップ100に誰もおらず、まさに冬の時代だった。当時、日本男子選手が、世界のトップ10に定着して活躍するなんて夢のまた夢だったのだ。

それが、今現実となり、世界4大メジャーであるグランドスラムの頂点を狙える位置まで錦織は到達し、それをわれわれは目撃できているのだから、本当に彼には感謝しかない。

だが、錦織の功績の影で、あぐらをかいてはいないだろうか。錦織が引退した後の日本テニス界を、先見の明をもって、しっかり見据えなければいけない時期に来ているのだ。

もしそれができず、優れた日本人プロテニスコーチが増加しなければ、プロを目指すジュニア選手は、かつての錦織のように海外へ練習する場所を求めなければならず、いつまでたっても、世界で通用する男子のトッププロ選手を、日本で育成できる強化システムが完成しない。

今回の日本テニス協会の新しい船出が、少しでもより良い日本テニスの未来への第一歩であることを願わずにはいられない。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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