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英王室の廃止を主張する「リパブリック」どんな組織か

小林恭子ジャーナリスト
ロンドンのトラファルガー広場で反王室のデモを行う人々(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 (「英国ニュースダイジェスト」の筆者コラムに補足しました。)

 チャールズ国王とカミラ妃の戴冠式(5月)が済み、国王の誕生日*を祝う行事「トゥルーピング・ザ・カラー」も、6月17日に無事終了した。(*国王の誕生日は実際には11月だが、伝統的に、毎年6月に君主の誕生日を祝う。)

 英国では、国歌斉唱時の「God save the King」(神よ、国王を守り給え)にもようやくなじんできたこのごろだ。

 世界各地でテレビ放送された戴冠式の様子を見ていると、英国全体が戴冠式に沸いたかのように思えるが、そうではないことを示したのが、「私の王ではない」(Not my King)などのプラカードを掲げて君主制への抗議運動に参加した人々の姿だった。

 BBCによると、5月6日の戴冠式当日、ロンドンのほかにウェールズのカーディフ、スコットランドのエディンバラやグラスゴーなどで君主制反対のデモがあった。

デモ参加者の逮捕

 中でも注目を集めたのがロンドン中心部での抗議デモだ。トラファルガー広場、ザ・マル、そのほか戴冠式のパレードが行われるルート近辺などでデモがあり、60人を超えるデモ参加者が逮捕された。

 大部分は「公的不法妨害を引き起こす疑い」を理由に、王室廃止を提唱する組織「リパブリック」(Republic)から8人、環境運動組織「ジャスト・ストップ・オイル」の20人、動物の権利を守る運動「アニマル・ライツ」のスタッフやボランティア14人などが逮捕された。

 リパブリックのメンバーで逮捕された人の一人が、組織の代表グレアム・スミス氏。16時間の拘束後、釈放された。

 スミス氏はリパブリックのウェブサイトで声明文を発表し、逮捕は「民主主義社会と、この国の全ての人の基本的権利に対する直接の攻撃だ」「英国で平和的に抗議を行う権利はもはやなくなった」と述べた。

 警視庁によると、5月6日朝、リパブリックが使う車両の中に、抗議者が路上に設置される防護柵などに体を固定する備品が見つかったことで、逮捕に踏み切ったという。戴冠式の数日前、このような行為を違法とする公的秩序法が成立したばかり。

 リパブリックのメンバーでスミス氏と同様に逮捕されたマット・ターンビル氏は、プラカードを支えるためのストラップが別用途の備品であると「誤解された」と話している。

 警視庁の対応を疑問視する声がロンドン市長サディク・カーン氏や野党議員らから出てきた。

 労働党議員クリス・ブライアント氏は、ツイッターで「言論の自由は立憲君主制の根幹をなすものだ」と述べている。また、イングランド北部ノーサンブリア警察の元警察署長スー・シム氏は抗議者の逮捕に「非常に失望した」、新法は「厳格すぎる」と批判した。

英王室の支持率は?

 今、どれくらいの人が王室を支持しているのか。

 世論調査会社「ユーガブ」とBBCが共同で行った世論調査によると、「王室制度が続くべき」と答えた人は58パーセント、「投票によって選ばれた人が統治するべき」が26パーセント、「分からない」が16パーセント(4月中旬調べ)。

 65歳以上では王室継続支持が80パーセント近くに上るが、18~24歳の若者では32パーセントに激減。王室に対する関心度については、いくらかでも関心を持っている人は全体では42パーセント、関心がない人は58パーセント。意外と「関心がない」人が多い。

 17世紀の一時期を除いて、英国の王室は約1000年の歴史を持つ。これまで、王室制度ではなく共和制の導入を支持する人は20パーセント前後といわれ、その比率は今でもあまり変わらないが、70年もの治世を続けたエリザベス女王が昨年9月に死去し、今後も王室制度を続けるのかどうかを考える機会が到来したともいえる。

 リパブリックは国民が王室の存在を投票で選ぶことができないので「その特権や影響力の誤用、無駄遣いに説明責任を持たせることができない」、「民主主義に反する存在」だと主張している。

 国民の投票によって国の代表者を決める大統領制はアイルランドやフランスで導入されている。

キーワード

Republic(リパブリック)

1983年に形成され、2006年にキャンペーン組織として正式に発足。世襲制の王室制度廃止のためにロビー活動を行う。大統領制など国民が元首を選ぶ制度を志向。2010年代から存在感を高め、2012年のエリザベス女王在位60周年「ダイヤモンド・ジュビリー」ではテムズ川沿いで抗議活動を展開した。昨年9月8日の女王の死去から10日間で会員数が1000人増加し、活動への寄付金も急増した。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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