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【新型コロナ】英ワクチン接種、2回目はずっと後でもいい?聞こえてきた不協和音

小林恭子ジャーナリスト
ワクチンの1つを手に取るジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 年が明け2021になりました。皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、先月初旬からワクチン接種を開始した英国。米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンの1回目の接種を終えた人は100万人近くに達している。

 英アストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチンも、4日以降、接種が始まる予定だ。

 しかし、ここに来て、「2回目の接種をいつ行うか」について論争が生じている。

 この2つのワクチンは2回接種することが決まりとなっているのだが、12月30日、政府とは独立した立場から免疫政策についての助言を提供する「予防接種・免疫合同委員会(JCVI)」がいずれのワクチンの場合も最初の接種から2週間後には感染防止作用が出てくるため、「2回目の接種を提供するよりも、より多くの人への最初の接種を優先するべき」と推奨した。

 そうすることで、「公衆衛生の面で短期的効果を上げ、より多くの人命を救える」という。

 具体的には、ファイザーのワクチンの2回目の接種を同社は1回目から21日後に行うと設定したが、これを「3週間から12週間」に伸ばすことが可能とした。アストラゼネカの方は2回目を「4週間から12週間後」でもよいという。つまり、最大で3か月の間隔をあけることになる。

 ジョンソン英首相も30日の記者会見で、1回の接種で「最悪の状態は防げる」とし、できうる限り多くの人に1回目を接種すると述べている。

 英国の新型コロナウイルスの感染者は1日当たりで約5万5000人(政府統計、12月31日時点)、死者は1日当たり約900人。冬に入って急速に増えており、政府は抑えようと必死だ。

英医師会の反対表明 

 ところが、2つの不協和音が聞こえだした。

 ファイザーのワクチン接種は12月4日に始まっており、2回目の接種を終えた人がいると同時に、2回目の接種のために日時を予約した多くの人がいる。接種の順番は医療関係者を除くと一般市民の中でも高齢者だ。2回目接種の心づもりをしていた人に対し、医療クリニック側が「予約キャンセル・延期」をしなければならなくなった。

 12月31日、英医師会は抗議声明の中で「あと数日で2回目の接種が受けられると思っていた高齢者に対し、不合理であり、公正ではない」と訴えた。

 現場の医師らが医師会に連絡を取り、予約の延期は高齢者や感染危険度の高い人の「心の安寧に大きな衝撃を与える」と報告しているという。「これほどの短期間で3か月に延期するという決定をするべきではない」。

 もし医師の側で予約を維持する決定をするのであれば、「医師会はこれを支持する」。

ファイザーは同意せず

 一方、製薬会社ファイザーは政府の「最長3か月伸ばす」方針に警告を発している。

 英フィナンシャル・タイムズ紙が報道したところによると、同社のワクチンの安全性と有効性は「1回目と2回目の間に21日の間隔を置く2回接種方式によって得られたものである」、「これとは異なる間隔でのワクチンの安全性と有効性については評価が行われていない」。

 1回目の接種から12日後、「一定の感染防止作用が出るように見える」が、このワクチンから「最大の効果を出すには2回の接種が必要」で、ファイザーが設定した最初の接種から「21日を過ぎても、防止作用が維持されることを示すデータはない」という。

 ファイザー社は、代わりの接種体制を採用するかどうかについては医療当局に決める権利があり、「規制当局と話し合いの機会を持つ用意がある」という。しかし、2回の接種によって最大の効果が上がることを繰り返している。

 英国医薬品庁(MHRA)によると、同庁のワーキンググループがデータを精査し、ワクチンの有効性は21日より長い期間継続するという結論を出したという。

 時間が経ったときに、どちらの判断が正しかったことになるのだろうか。

 医療の専門家ではない筆者がドキリとするのは、ファイザーの説明だ。同社が臨床試験から最終の判断を出したときに「2回の接種」と「間に21日置く」がセットになっている。「これとは異なる間隔でのワクチンの安全性と有効性については評価が行われていない」。

 日本では、新型コロナワクチンの接種は2月以降になるようだ。

 ハンコック英保健相によると、年末時点で英国で1回目の接種を済ませた人は約94万人である。約ひと月でここまで達しているので、2月までには少なくとも200万人がいずれかのワクチンの1回目を接種していることになりそうだ。

 さて、日本はどうするだろうか。安全性を極力第一に実施してほしいものだが。

 「急げ!急げ!」とばかりにワクチン接種の拡大に突き進む英国。国営の国民医療サービス(NHS)が一括して接種体制を担当しているが、現場の医師や看護師の負担が大きく膨らむ日々となっている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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