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#BlackLivesMatter】倒された奴隷商人の銅像の代わりに反人種差別の女性の像が置かれた

小林恭子ジャーナリスト
奴隷商人コルストンの銅像が取り去れらた後の様子(写真:ロイター/アフロ)

 6月7日、反人種差別運動「Black Lives Matter(黒人の命も重要だ)」のデモの最中に、英南西部ブリストルで17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が倒され、海に投げ込まれた。

 英ガーディアン紙の報道によると、今月15日、同じ場所に新たな銅像が置かれた。今度は、反人種差別運動のデモ参加者ジェン・リードさんの銅像だ。

 新たな銅像が運び込まれたのは15日早朝。銅像を作ったアーチスト、マーク・クインの指令を受けて、トラックで作品を持ってきた10人ほどのスタッフが作業を開始した。15分ほどで設置作業は終了したという。

 ブリストル市当局からの銅像設置許可は得ておらず、15日午後、マービン・リース市長は取り去る予定であることを明らかにした。

 新銅像(作品名「A Surge of Power(力のうねり)」)の下には「black lives still matter」(黒人の命はまだ重要だ)という言葉が書かれたプラカードが置かれた。

新たな銅像の前に立つ、ジェン・リードさん(ガーディアンのウェブサイトから)
新たな銅像の前に立つ、ジェン・リードさん(ガーディアンのウェブサイトから)

 リードさんの職業はスタイリストで、デモには夫とともに参加した。

 クインはガーディアンに対し、白人のアーチストとして意見を表明することが大切だと思ったと語っている。「世界をアートに持ってくること、アートを世界に持ってくることが自分の仕事の一環だ」。クインは、2011年にロンドンの黒人青年が警察に射殺され、これを機に各地で暴動が発生した際にもこれにインスピレーションを得た一連の作品を発表している。

 デモに参加したリードさんは、家に帰る途中で「コルストンの銅像があった台座に立ってみたいという強烈な思いに駆られた」という(クインのウェブサイトより)。台座に立った時、「片腕を上げていた」。黒人運動の意味を込めていた。

 「体に電流が流れた感じがした。コルストンによって奴隷にされた人々のことを考え、力を与えたいと思った。(米国で白人警官の暴行で亡くなった黒人男性)ジョージ・フロイドさんに力を与えたかった。私のように不正義や不平等の立場を苦しんだ黒人市民に力を与えたかった。すべての人に力のうねりを与えたかった」。

 

エドワード・コルストンとは

 

 コルストン(1636~1721年)は1680年、アフリカ西部の奴隷貿易市場を独占していた王立アフリカ会社(RAC)に入り、ここで巨額の富を築いた。英メディアによると、RACは1672~89年の間に約8~10万人の黒人の男女や子どもたちをアフリカ大陸から米国大陸に送り込んだ。足枷を付けられ、密集状態で船に乗せられた人々は、1~2カ月にわたる長旅の不衛生な環境、脱水症状、赤痢やほかの疾病などが原因となって、その10~20%が航行中に亡くなった(「英国ニュースダイジェスト」、筆者記事より)。

 英国国立公文書館によると、奴隷貿易廃止法案可決の1807年までに英国は310万人のアフリカ住民を奴隷として移動させた。

 クインは、ガーディアンに対し、リードさんが台座に立って腕を上げた時、「すでに作品はできていた」という。「あとはこれを形にするだけだった」。

 取り去られたコルストンの像は海から引き上げられており、ブリストル市はこれを博物館で展示する予定だ。

 BBCが伝えたところによると、リース市長は新しい銅像が市の許可を得て置かれたものではないと述べている。「台座をどうするか、何を上に置くかはブリストル市民が選択するべき」。銅像が撤去されたことを喜んだ人ととともに、撤去に困惑し、ブリストルの一部が失われたと感じている人もいるとして、変化は必要であるものの、市民がついていけるようなスピードの変化を望んでいるという。

 市長は市による選考過程を経ずに置かれた作品は取り去る予定であることをツイッターで明らかにした。

 

リース市長がツイッターで撤去予定を表明(ツイッターより)
リース市長がツイッターで撤去予定を表明(ツイッターより)

 クインによると、「動かすのが難しいようにしている」が、「永久に置いておく作品とは考えていない」。

 ブリストル市は、ブリストルの「本当の歴史」について調査する、歴史家や専門家らによる委員会を立ち上げている。

 【更新情報】16日早朝、ブリストル市はリードさんをモデルにした銅像を撤去した。

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 関連の筆者記事:

「Black Lives Matter」反人種差別デモが奴隷商人の銅像を倒す - ロンドン市長は記念碑に関する委員会を設置(「英国ニュースダイジェスト」、6月18日)

銅像撤去は歴史を消すか(「独立メディア塾」、7月1日)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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