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【新型コロナ】もっとイチゴを食べて!と呼びかける英生産者 パブ閉鎖で余ったビールは捨てられる

小林恭子ジャーナリスト
ウインブルドン・テニス大会でイチゴのデザートを食べる習慣がある(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大措置として英国では外出制限令が施行され、多くの人が集まるイベントが次々と開催中止となった。レストランやパブなどの外食産業は閉鎖を余儀なくされている。

 外出制限が敷かれてから1か月半が過ぎ、これまでであれば大量にさばけるはずの特定の食品・飲料が余剰となる事態が生じている。

 例えば、結婚式のウェディングケーキ、食事が提供されるイベントのデザート、そして、テニスのウィンブルドン大会で大量に使われるイチゴが一例だ。

 ウインブルドン大会では、イチゴに生クリームをかけた「ストロベリー・クリーム」を観戦しながら食するのが一つの風物詩となってきた。

 しかし、今年、6月29日から始まるはずだった大会は中止されている。英国ではイチゴの収穫は6月からがピークだが、生産者の懸念は大きい。

 国連食糧農業機関の調べによれば、2018年時点で、英国で生産されるイチゴの量は13万2000トン。ラズベリーは15万トン。通常であれば、英国はこうしたベリー類の輸出国だ。

 昨年、ウインブルドン大会では33トンのイチゴが消費されたという。

 果実業界の組織「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」のニック・マーストン代表は、フィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、イチゴの消費増大を呼びかけた(5月16日付)。

 業界の懸念は、ロスをどうするかの他にベリー類を収穫する人材の不足だ。

 例年であれば、季節労働者が東欧からやってきて、収穫作業を担当した。しかし、新型コロナの影響で人の移動が止まってしまった。また、感染を防ぐための「社会的距離(ソーシャルディスタンシング)」を取りながら、どうやってベリー類を収穫するのかも課題だ。

 ブリティッシュ・サマー・フルーツは、ウェブサイトで、ベリー類の収穫を手伝ってくれる人を募集している。コロナで仕事を失った人に、参加を募っている。

「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」は、収穫作業を手伝ってくれる人を募集中だ(「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」のウェブサイトより)
「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」は、収穫作業を手伝ってくれる人を募集中だ(「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」のウェブサイトより)
印がついた場所で人手の空きがあるという(「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」ウェブサイトより)
印がついた場所で人手の空きがあるという(「ブリティッシュ・サマー・フルーツ」ウェブサイトより)

捨てられるビール

 英国と言えばパブだが、3月末から閉鎖状態となっている。政府がまとめた今後のロードマップによれば、レストランやパブの営業再開は早くても7月4日である。

 パブの業界団体の1つ「英国ビール&パブ協会」によれば、この時までに、現在備蓄中のビールは使えない状態となっているため、7000万パイント分(注:当初の「700万パイント」を「7000万パイント」に修正しました)を捨てざるを得ないという(ちなみに、英国の1パイントは568ml。日本の中瓶の瓶ビールが500ml)。

 パブで提供されるビールは木樽に保存され、カウンターではハンドパイプからグラスに注ぎこまれる。通常であれば、ビールの寿命は6~9週間だ(BBCニュース、4月13日付)。

 国内にある約4万7000のパブは、これまで、ビールが無駄にならないよう、常連客に届けたり、寄付をしたり、肥料として使ってもらえるようにしてきた。

 英イングランド北東部ノーサンバーランドにあるビールの醸造会社「アルンウィック・ブリューエリー・カンパニー」は、週に一度、地元住民にビールを分けることにした。ビールの提供自体は無料だが、国民医療制度(NHS)への寄付を求められる。

 また、別の醸造会社・パブ経営チェーン「ブルードッグ」は工場の一部でビールのアルコール分を使って、手の除菌用ジェルを作りだした(BBCニュース、4月13日付)。

 余剰のビールをどうしたらいいのか。また、7月上旬という長い間、スタッフをどうするのか、家賃はどうか。パブ経営者にとって悩みは多い。

 7月からの再オープン時、「結局は閉店」というパブが続出しそうだ。それに伴い、パブ勤務のスタッフも職を失うことを意味する。怖い現実である。

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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