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【欧州議会選挙目前】英国の2大政党は大敗か? 新規の離脱政党がすでに10万人の支持者獲得 

小林恭子ジャーナリスト
新党「ブレグジット党」のファラージ党首(右)(写真:ロイター/アフロ)

 23日から26日にかけて、欧州連合(EU)に加盟している国では欧州議会選挙が行われる。

 英国での投票は23日になる。

 英国はEUからの離脱(「ブレグジット」)を目指しており、当初は3月29日に離脱するはずだった。ところが英政府とEU側がまとめた離脱協定案(どのように離脱するかを規定)を英議会が承認せず、与党・保守党と最大野党・労働党との間で妥協案をまとめるべく話し合いが続いているが、先行き不透明の状態だ。

 メイ首相自身の将来は風前の灯だ。政府は6月上旬、「離脱合意法案」を採決にかける予定だが、可決の見通しは低いと言われている。

首相はかつて、先の離脱協定案が通れば辞任するとしていたものの、なかなかこれが実現せず、業を煮やした保守党内の離脱強硬派が「辞任日を明確にして欲しい」と迫っていた。

16日、とうとう結論が出た。保守党の平議員で構成される「1922年委員会」と会合を持った首相は、6月上旬までに辞任日を明確にすることに合意した。

メイ首相への不満の種は?

 保守党内でのメイ首相に対する不満の理由は、EUと合意した離脱協定案が離脱派も残留派も満足させない内容であった上に、下院が協定案を3回も否決したのに、その内容を変えようとせず、とうとう「3月29日には、離脱する」という有権者への約束を果たせなくなった点だ。

 5月上旬の地方選挙で、保守党は1300議席以上を失ってしまった。2017年6月の総選挙(下院選)でも、メイ首相率いる保守党は議席を減少させており、「メイ氏がトップでは、次の選挙に勝てない」という思いが、保守党内で今まで以上に大きくなっている。

 野党・労働党との協議も、党内で大反発を引き起こした。英国では大陸の欧州諸国のようにほかの政党と協力しながら政権を発足させる伝統がなく、野党はあくまでも「敵」だ。しかも、労働党は、離脱後の英国は関税同盟に参加し続けるべきと主張しており、保守党内の離脱派議員にしてみれば、「これでは離脱の意味がない」のである。

 

 そして、23日の欧州議会選挙である。先の下院選では離脱を実行すると約束して戦った、保守党。欧州議会選挙に向けて、マニフェストらしいマニフェストが見当たらない。離脱すると約束していたため、今更、マニフェストを作りようがないのだろうか。

 あと1週間ほどで投票日なのに、政権党がマニフェストを作れていないし、目立った選挙運動もしていないー。これ自体が保守党の苦悩を示す。

 さらに、メイ首相の辞任がほぼ確定したことで、「我こそは次の首相に」と考える大物政治家たちが様子をうかがっている状態だ。16日には大本命とされるジョンソン元外相が出馬の意思を示した。

 メイ首相は「保守党を分裂させた首相」として名を残すかもしれない。

労働党も混迷

 労働党も混迷状態にある。

 コービン労働党党首がメイ首相と協定案をまとめるために話し合いの機会を持つこと自体に反発がある。保守党と全く同じように、である。労働党にとって、保守党は一種の敵であり、「失敗する離脱」に労働党が加担したと思われたくない。

 労働党議員の大部分が残留支持者と言われている。しかし、2016年の国民投票では離脱派が僅差で勝利したため、心の中では「離脱反対」と思いながらも、表向きは「離脱を実施」と言わざるを得ない。実際に、2017年の下院選では、保守党同様、「離脱を実現させる」ことをマニフェストに入れたのである。

 労働党は「第2の国民投票」も視野に入れているが、それはあくまで「最後の手段」。国民の中には、再度の国民投票に対する反対の声が根強く存在する。

残留支持政党の分裂

 今月の地方選挙で躍進したのが、残留支持を鮮明にする、親欧州の自由民主党。2010-15年、保守党と連立政権を組んだ経験もある。

 しかし、残留支持の政治勢力は分裂している。労働党が「心は残留だが、表向きは離脱」という姿勢を取るのに対し、自民党は「残留」そして「第2の国民投票」を主張する。

 残留派でかつ第2の国民投票を同様に主張しているのが、新たな政党「 チェンジUK」(元「独立グループ」=TIG)。

 欧州議会選挙で自民党はチェンジUKとの共闘を志向したが、チェンジUKは乗り気ではなかったという(ケーブル自民党党首)。

「チェンジUK」とは

「チェンジUK」(ウェブサイトより)
「チェンジUK」(ウェブサイトより)

 

 チェンジUKとは、労働党の下院議員8人と保守党の下院議員3人が発足させた政党だ。2大政党制が長く続く英国で、大手政党から議員が抜けて新たな政治勢力を形成する動きは、社会民主党(SDP)の誕生以来、約38年ぶり。

 2月18日、ブレグジットや反ユダヤ主義(ユダヤ人に対する敵意や偏見)などについての労働党指導部の姿勢を批判する下院議員7人が離党し、「独立グループ」の発足を宣言。黒澤明監督の映画の題名を借り「7人の侍」とも呼ばれたメンバーは、チュカ・ウムナ議員(初当選2010年、以下同)、ルシアナ・バージャー議員(2010年)、クリス・レズリー議員(1997年)、アンジェラ・スミス議員(2005年)、マイク・ゲイプス議員(1992年)、ギャヴィン・シューカー議員(2010年)、アン・コフィー議員(1992年)。

 このグループ結成から2日後、今度は保守党のアナ・スーブリー議員(2010年)、ハイディ・アレン議員(2015年)、サラ・ウォラストン議員(2010年)が離党。こちらは、米映画「サボテン・ブラザーズ」(原題「Three Amigos」)にちなんで「3人のアミーゴ(友達)」と呼ばれた。離党理由は、保守党が「離脱強硬派に乗っ取られている」、「社会的な不公平の解消や貧困対策を十分に行っていない」ためだった。

 のちに、グループは政党に発展し、名前をチェンジUKに変えた。

大きく躍進する「ブレグジット党」

ファラージ氏が党首となる「ブレグジット党」(ウェブサイトより)
ファラージ氏が党首となる「ブレグジット党」(ウェブサイトより)

 2大政党に元気がなく、残留勢力が1つにまとまり切れない中、大躍進を遂げているのが、今年1月に発足したばかりの政党「ブレグジット党」だ。その目的は、党名が示すように「英国のEUからの離脱」だ。

 党首は、元英国独立党(UKIP)の党首ナイジェル・ファラージ氏。

 UKIPは2016年の国民投票を実現するために大きな機運を作った政党で、ファラージ氏はその党首としてカリスマ的魅力を発揮した。

 参考(筆者記事、2016年6月27日)

 離脱派を先導した「英国独立党」の危険な素顔

 現在、UKIP自体はまだ存続しているが、排他的な政策で批判を浴び、国民投票の結果が出た直後にファラージ氏が党首を辞任してからは何度も指導陣が交代。かつての勢いはもはやない。

 前回の欧州議会選挙(2014年)では、UKIPは第1党となった(英国に割り当てられた議席数の中で、最多を取得)。今回はブレグジット党が第1党となる可能性がある。

 結党から現在までにすでに10万人の支持者を集める破竹の勢いだ。

 世論調査会社「ユーガブ」によると、「欧州議会選挙でどの政党に投票するか」と聞かれ、首位(34%)となったのはブレグジット党だった(5月8-9日実施)。これに労働党(16%)、自民党(15%)、グリーン党(11%)、保守党(10%)、チェンジUK(5%),UKIP(3%)、その他の順となった。前週の調査では、ブレグジット党は30%だったという。

 離脱する予定の英国の議席の中で、第1党がブレグジット党となる見込みが高い。EU他国からすれば、さぞ奇妙な現象に違いない。

 参考:各政党の欧州議会選挙に向けての姿勢(BBCニュース)

 European elections 2019: where the parties stand on Brexit

 

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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