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英国で異性カップルでも「シビル・パートナーシップ制」が可能になるか? 結婚を避ける人が増えている

小林恭子ジャーナリスト
異性でも結婚ではなく、「シビル・パートナーシップ」を望む人も(写真はイメージ)(写真:アフロ)

 英国で6月27日、異性同士のカップルでも、これまで同性同士のカップルにのみ認められていた「シビル・パートナーシップ」を結ぶことが出来る道が開けた。

 ロンドンに住むレベッカ・スタインフェルドさん(37歳)とチャールズ・ケイダンさん(41歳)にとって、最高裁の判断は待ちに待ったものだった。

 同性同士のカップルの法的結びつきとなるシビル・パートナーシップを異性カップルが選択できないのは、欧州人権条約に「そぐわない」とする判断が下されたのだ。

 これで法律がすぐに改正されるわけではないが、その可能性は高くなったと言えよう。

 レベッカさんとチャールズさんは2010年に出会い、すでに2人の子供がいる。しかし、結婚は「何世紀にもわたって、女性を男性の所有物と見なしてきた」制度のように感じており、自分たちの関係を結婚の枠組みで規定されたくないと思ったという。2014年、市役所にシビル・パートナーシップを結ぶ書類を提出したが、「前例がない」と却下されてしまった。裁判への道のりが始まった。

 2人の願いを支持する署名運動には、13万人が署名したという(6月27日、BBCニュース報道)。

英国のシビル・パートナーシップ制度とは

 英国では、同性カップルが異性間の婚姻に準ずるものとして「シビル・パートナーシップ」という法的関係を持つことができるようになった(2014年のシビル・パートナーシップ法による)。

 同性及び異性カップルが利用できる「結婚」と、同性カップルのみが利用できる「シビル・パートナーシップ」を比べてみると、どちらの場合でもカップルは同等の権利と義務(遺産相続、税金、年金、最近親者として扱われるなど)を付与される。

 違いはシビル・パートナーシップの対象が同性カップルに限られていること。また、宗教性がないことだ。

 英国では結婚というと、異性カップルの法律上の結びつきであると同時に、宗教儀式としても認識されてきた歴史がある。

欧州内では?

 BBCの調べによると、フランスでシビル・パートナーシップに相当するのは「パクト」と呼ばれる関係で、これは同性及び異性カップルが選択できる。同様に、両方で利用できる法的関係を提供しているのはオランダ(1998年から導入、以下同)、ベルギー(2000年)、ルクセンブルク(2004年)、ギリシャ(2008年に異性カップル向けに導入され、15年からどちらでも可能に)、マルタ(2014年)、キプロス(2015年)、エストニア(2016年)など。

英国では結婚件数が減っている

英イングランド・ウェールズ地方の結婚件数(国家統計局資料)
英イングランド・ウェールズ地方の結婚件数(国家統計局資料)

 英国家統計局の調査によると、英国(ここでは人口の5分の4を占めるイングランド・ウェールズ地方)では結婚の件数が長年、減少傾向にある。上記のグラフは1935年から2015年までの分だ。異性間のカップルの結婚件数は2015年で23万9020。前年から3・4%の減少だ。1970年代以降、減少傾向が続いている。

 次に、「結婚率」を見てみる。「16歳以上の1000人の男性(あるいは女性)の中で、どれぐらいの人が結婚しているか」を示すグラフが以下である。青色の線が男性、黄色が女性だ。1000人の男性の中で21・7人、女性の場合は19・8人が結婚していた。それぞれ前年と比較して5・7%減、5・3%減。この統計は1862年から開始しているが、これまでで最も低い数字だそうだ。ただし、「50歳以上の男性、そして35歳以上の女性の結婚率は上昇している」(調査官)。

結婚率を示すグラフ(国家統計局)
結婚率を示すグラフ(国家統計局)

親の約半分が婚姻関係を結ばずに出産・子育て

 もう1つ、あるデータを紹介しておきたい。

 国家統計局の別の調査によると、イングランド・ウェールズ地方での出産数は69万6267件で、前年より0・2%減。「妊娠率」は1.81で、前年は1.82だった。、

 興味深いのは、結婚もシビル・パートナーシップも結んでいないカップルから生まれた子供の比率だ。2016年で47・6%。前年は47・7%だったので、微減だ。逆から見ると、半分強が結婚あるいはシビル・パートナーシップ関係にある親から生まれている。

 結婚もシビル・パートナーシップも結んでいないが子供を持つカップルの場合、その60%以上が生活を共にしている。2016年はこれが67%になった。一切の法的関係を結ばないにもかかわらず一緒に暮らし、親となって子育てをするカップルが珍しくなくなってきた、という。いわゆる「事実婚」である。

 筆者の周囲を見ても、あるいは著名人、政治家などを見ても、このパターンがよく目につく。

 英国では、「事実婚でも子供の養育に関する権利や責任において、それほど大きな法的違いがない」要素も影響しているのだろう(もっと深く知りたい方は長野雅俊氏による「英国ニュースダイジェスト」の記事をご参考にされたい)。

 異性カップルにおいては、結婚という形にとらわれず、より自由に、より平等に暮らしたいと考える人が社会の主流になりつつある。

 ちなみに、以前にも別の原稿で言及したが、日本の厚生省の「人口動態」によると、2015年時点で、出生総数に占める非嫡出子の比率は2・29%。日本では結婚と出産がほぼイコールとなっている。

 

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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