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英総選挙をダジャレやそっくりさんの写真で笑う英新聞 メイ保守党は新政権発足へ

小林恭子ジャーナリスト
9日、新政権発足を宣言するために官邸から出てくるメイ首相(BBCサイトより)

9日朝までに英国総選挙の結果が判明し、メイ党首の与党・保守党は過半数を取れずじまいに終わった。

総議席650のうち、649議席まで当選が確定した時点で、保守党は318議席(12議席減)、最大野党の労働党は261議席(29増)、続いてスコットランド独立党は35議席(21減)、自由民主党は12議席(4増)、そのほかの政党・無所属は23議席となった。

ブレグジット交渉に向けて、「強い、安定した政権」を作るはずだったメイ首相。逆に議席を減らしてしまった。辞任を求める声も出る中、メイ氏は少数単独政権の発足を決意。9日昼、官邸前で「すべての人のための新政権」を築き上げることを宣言した。

なぜ当初は「勝利は確実」と言われていたメイ氏の目論見がはずれたのか。

その理由とブレグジット実現に向けた見通しについては、こちらの記事「与党過半数割れ、視界不良のメイ政権とブレグジット」をご覧いただきたい。

私自身、それほど大きな勝利ではなくても、保守党は少なくとも過半数は超えるだろうと見ていただけに、大きな衝撃だった。世論調査では保守党と労働党の支持率の差は、選挙戦後半には数パーセントにまで狭まっていたが、「でもやっぱり、メイ氏が勝つでしょう」と大方のメディアも思っていたようだ。

やはり、選挙はやってみないとわからない。これまでの最近のいくつかの選挙のように、様々な予想とは裏腹に「有権者の声が発揮された」のである。

今朝の新聞紙面は?

昨日に引き続き、英国の新聞紙面の一部を紹介してみたい。

高級紙テレグラフ(保守党支持)、タイムズ(保守党支持)、ガーディアン(保守党支持)はそれぞれの政治姿勢を反映しながらも、冷静にメイ氏の動向を1面で紹介した。

テレグラフ紙の1面 「メイ氏のギャンブルが裏目に出る」
テレグラフ紙の1面 「メイ氏のギャンブルが裏目に出る」
タイムズの1面 「メイ氏の大きなギャンブルが裏目に出る」
タイムズの1面 「メイ氏の大きなギャンブルが裏目に出る」

タイムズはテレグラフに非常によく似た見出しを付けている。

ガーディアンの1面 「コービン氏が保守党を驚かせる」
ガーディアンの1面 「コービン氏が保守党を驚かせる」

ダジャレ満載の大衆紙

威勢がよく、見ていて楽しいのが大衆紙の紙面だ。サン紙はメイ氏の写真の下に、一言「Mayhem (騒乱)」とつけた。「メイヘム」のメイと掛詞になっており、「メイが起こした騒乱」とでもいうようなニュアンスが出た。

サンの1面
サンの1面

中面ではビートルズの歌「A Hard Day's Night」にひっかけて、「Hard May's Night」(メイの厳しい夜)。

ビートルズの歌にひっかけた見出し
ビートルズの歌にひっかけた見出し

左派系大衆紙デイリー・ミラー(労働党支持)は、コービン氏の奮闘を称える見出しだ。「Cor blimey」は「これは驚いた!」という意味だが、「Cor」に「コービン氏(Corbyn)」の名前をかませてあるようだ。

ミラー紙の1面
ミラー紙の1面

中面では、コービン支持者が保守党支持のサンやデイリー・メールをごみ箱に捨てたという記事が載っている。昨日、サンはコービン氏をゴミ箱の中に入れた合成写真を紙面に掲載した。これに怒ったコービン支持者が行動を起こした・・・というわけだ。

画像

本日の紙面で、もっとも「頑張った」、「笑わせてくれる」と思ったのは、大衆紙デイリー・スター。

「テッザ」とはメイ首相のことだ。

デイリー・スターの1面。「「テッザの希望はてんびんに乗って宙ぶらりん」
デイリー・スターの1面。「「テッザの希望はてんびんに乗って宙ぶらりん」

中面に、おや!と思う写真があった。

下の写真を見ていただきたい。もちろん、そっくりさんであって、本人ではない。左がメイ首相、右がコービン氏の想定である。「勝とうが負けようが、酒を飲むぜ」という見出しが付いていた。

「メイ氏」と「コービン氏」??
「メイ氏」と「コービン氏」??

コービン氏を思わせる男性が来ている赤いTシャツに書かれた文章は、戦時中に国民の士気を保つためのポスターに書かれていた文句だ。「キープ・カーム・アンド・キャリー・オン=平静を保ち、普段の生活を続けよ」の意味である。片手に持つコーヒーカップに「首相」とあった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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