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アニメの視聴が復興支援に、石川県・湯涌温泉と「花いろ」の取り組み

小新井涼アニメウォッチャー
湯涌温泉(筆者撮影)

この度の能登半島地震の発生を受けて、現在様々な形での支援や募金活動が行われています。

そんな中、石川県のとある地域と深い繋がりを持つアニメ作品が、アニメの視聴を通して復興支援が行えるチャリティー配信を行い、注目を集めました。

作品を好きな気持ちが関連地域の応援にも繋がるこの取り組みとは、一体どういうものなのでしょうか。

■アニメ「花咲くいろは」のチャリティー配信

今回チャリティー配信を行ったのは、オリジナルアニメ「花咲くいろは」という作品です。

祖母の経営する温泉旅館に住み込みで働くことになった高校生の主人公・緒花の成長や葛藤、周りの人々とのドラマを瑞々しく描いた本作。

その主な舞台となる温泉街は、石川県金沢市にある湯涌温泉をモデルにしています。

今回、湯涌温泉自体では震災の大きな被害は無かったと報じられたものの、同じ石川県の観光名所をはじめ、作品に関連するグッズを手掛ける地元メーカーにも深刻な被害が生じました

こうした状況の中、本作が実施したのが、震災の復興にあてるためのチャリティー配信だったのです。

1月12日に実施されたプレミア公開では、本作テレビシリーズ全26話と劇場版が配信されました。

今回集まったスーパーチャットや視聴による広告収益の全額は、湯涌温泉を通じて震災の復興に使用されるとのこと。

現在も公開中のアーカイブについても、引き続き再生回数が支援へと繋がるということで、公開後2日を経て視聴回数は10万回を超え、記事執筆時点の14日現在も、未だスーパーチャットが集まり続けています。

■「花いろ」と地域との繋がり

そんな本作「花いろ」と湯涌温泉には、もともと一般的に想像されるような“作品とモデル地の関係”以上の、長年続く深い繋がりがありました。

そのひとつの要ともいえるのが、「湯涌ぼんぼり祭り」というお祭りの存在です。

今ではすっかり地域のお祭りとしても根付いているこのお祭りは、実は元々その地域で行われていた行事ではなく、本作「花いろ」で描かれた架空のお祭りを、モデル地である湯涌温泉でリアルなお祭りとして再現し、10年以上続いてきたという異例の経緯があります。

作品モデル地や舞台地の中には、残念ながら放送終了と共に作品との繋がりが薄れていく地域も少なくない中、作品由来の行事が今なお続き根付いた地域と本作との繋がりの深さは言わずもがなです。

今回のチャリティー配信も、昨今珍しくはないYouTubeでの本編プレミア公開と聞くと、一見簡単なことのようにも思えるかもしれませんが、本作が既に初放送からは約12年も経つことを考えると、震災を受けて製/制作サイドが配信実施を決定し、その収益を、地域(湯涌温泉)を通じて復興の支援にあてるというこの取り組みは、そうして長年の信頼関係を築いてきた「花いろ」と湯涌温泉だからこそ出来たことでもあったのではないでしょうか。

そしてもちろん、こうした支援の実現には、好きになった作品を通してモデル地となった地域を応援したいという長年のファンや、今回初めて本作に触れてファンになっていく人々の存在も欠かせません。

今回の取り組みは、現在多くの人が被災地に対し何かできることは無いかと思う中で、アニメの視聴を通して地域を応援することができるという新たな復興支援の手段を提示しました。

その実現背景には、そうして一過性に終わらず紡がれてきた、地域と作品、作品とファン、ファンと地域との長年の関係性もあったのでしょう。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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