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相次ぐ声優の体調不良:声優ブームや活動のマルチ化ばかりが問題なのか

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:イメージマート)

昨今の社会的なアニメブームと共に、益々脚光を浴びることが増えてきた声優業界。

その中で、近頃体調やメンタルの不調による活動休止者が相次いでいることを受け、そうした業界の現状について取り上げた番組関連記事が配信され、話題となりました。

特に関連記事では、上記の要因として昨今の声優ブームや、それに伴うマルチな活動による負担の増加がフォーカスされたこともあり、SNSでは近年益々加速する声優活動のマルチ化(俗に、長年いわれてきたアイドル化)を疑問視する声も少なからず見受けられるようです。

しかし、事態はそうして疑問視される声優ブームやマルチな活動が落ち着き、声のお仕事のみに集中できるようになれば収束するほど、シンプルなものなのでしょうか。

■活動のマルチ化:否定ばかりはできない一面も

そもそも、負担の一因とも捉えられている声優ブームや活動のマルチ化ですが、一概に否定ばかりできない面もあるように思います。

ブームも後押しとなり、歌唱や作詞・作曲、漫画や小説の執筆から、実写ドラマの出演など…あくまで声に重点を置きながらも自身のスキルを活かした“表現のチャンスが増えてきている”ことは、広く表現者である声優の方々にとってはポジティブな面もあると考えられるからです。

また上記に加え、ソシャゲやライブイベントの興隆により歌やダンスの機会が増加し、それに伴うレッスンや拘束時間の負担が増えたこと等も、問題としてよく挙げられています。

しかし、30分アニメ1本の収録につきギャラは1万5千円と決まっている新人声優の方々にとって、ライブやイベント、ソシャゲの収録で発生するギャラは、他に声の仕事と関係の無いバイトをするよりは、経歴や収入の面でプラスとなっているところも、確かにあるのではないでしょうか。

こうしてみると、確かにそれにより本業である声のお仕事を圧迫する場面もあるかもしれませんが、かといって、ブームや活動のマルチ化を機に活躍の場を広げる方々や、増加する表現のチャンスごと、頭ごなしに否定してしまってもよいものかという疑問も残ります。

■状況は思った以上に複雑に

とはいえ、それでも前述した番組内で指摘されている、声優業界における精神的・身体的な負担の増加自体は決して看過できるものではありません。

さらに近年は、そうした仕事上での負担の増加のみならず、声優への注目の高まりを背景に、SNSや週刊誌等を気にしてプライベートでの言動にも神経を使う機会や、コロナやインボイス制度など、社会的な要因による先行きへの不安も増えてきていることと思われます。

既にこれだけ認知度が高まり、エンタメの消費形態自体も以前より大きく変化してきている今、そもそも事は声優ブームや活動のマルチ化を見直し、声のお仕事だけに集中できるようにすれば収拾するようなシンプルな事態ではなくなってきているのかもしれません。

写真:イメージマート

しかしこうした状況は、声優業界がただ悪い方へ向かっているのではなく、時代に合わせて業界が変化する中で、それに伴う改善点が可視化されてきている段階でもあると思います。

そんな中、今回の番組のように業界の現状がフォーカスされ、世間で様々な議論がなされることで、たとえば番組内でも言及されていたように、専門学校や養成所といった教育機関の充実を活かし、今後技術面以外の教育機会(たとえばメンタルケアなどの問題だけでなく、確定申告の方法やSNS運用等まで)が検討されていくこともあるかもしれません。

また、声優ほど養育機関も充実していない中で、それだけ多忙な担当声優を何人も抱える声優マネージャーや声優事務所という、声優の“更に裏方”の業務形態にまで焦点が当たり、ひいては声優業界全体の改善にも繋がる構造の見直しがなされていくこともあるかもしれません。

いずれにせよ、話題になったからといって問題がすぐに改善されることは難しいとは思いますが、今後も業界に注目が集まる中で、そうした状況の改善に向けた動きも、同時に増えていくことを祈るばかりです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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