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アニメ「花咲くいろは」から生まれたお祭りが10周年:コロナ禍での聖地は今

小新井涼アニメウォッチャー
(筆者撮影)

毎年多数の新作アニメが誕生する現在、“聖地”と呼ばれるアニメに登場した地域やモデル地も益々増加しています。

しかし作品の盛り上がりや地域での展開が続く期間は本当に作品それぞれ。

アニメの放送が終了した後も、イベントやコラボが開催され続ける地域はかなり限られてきます。

そんな中、放送からなんと10年が経った今も、毎年聖地での展開が続く作品があります。

アニメ「花咲くいろは」とその聖地・石川県の湯涌温泉です。

本作が長年聖地での展開が続く要因とは、そしてコロナ禍が続く現在、アニメの聖地が直面している現状とは、一体どのようになっているのでしょうか。

■アニメ「花咲くいろは」と作品聖地湯涌町

アニメ「花咲くいろは」は、2011年に放送されたオリジナルアニメです。

家庭の事情で一人都会を離れ、話したこともない祖母の元を訪れた女子高生の主人公。

彼女が、祖母が女将をつとめる温泉旅館に住み込みで働きながら、複雑な人間関係や温泉の経営など大小様々なトラブルに直面しながらも、そこで生きる人々と過ごす日々を通じて、少しずつ成長していく物語です。

舞台となる温泉旅館があるのは架空の町・湯乃鷺温泉(ゆのさぎおんせん)。

そのモデル地となり、劇中にも実際の景色が度々登場する作品聖地が、湯涌温泉です。

■物語と現実世界を繋ぐアニメ発のお祭り「湯涌ぼんぼり祭り」

作品のモデル地としての景色やコラボはもちろん、他の聖地には未だかつて無かった、そして本作が長年聖地での展開が続く大きな要因として挙げられるのが「湯涌ぼんぼり祭り」の存在です。

湯涌温泉で毎年10月に開催されるこのお祭りは、土地の神様が神無月に出雲に帰る道しるべとして、人々がぼんぼりを灯して見送り、神様がそのお礼に、ぼんぼりにつるされた“のぞみ札”に書かれた願いを出雲の神様に届けてくれるというもの。

しかしこのお祭り、実は昔から地域に根付いていたお祭りではなく、なんとアニメ「花咲くいろは」に登場した架空のお祭りを現実世界で再現したものが、地域のお祭りとして定着したという、前代未聞のお祭りなのです。

アニメが起源ということで、出演声優の方々がゲストとして登場したり、祭りを訪れる人々の多くが作品ファンではありますが、お祭り自体は“アニメイベント”ではなく、作品製作委員会の協力の下、あくまで地域主催のお祭りとして開催されます。

その内容も本格的で、お祭り当日の夜、神様が通る道に設置されたぼんぼりが灯り、温泉街を進んだ先にある神社で宮司による神事が行われ、そこで迎えられた神様を出雲へ見送るための“神送りの儀”(祝詞の奏上と共に、道中回収された人々ののぞみ札が焚き上げられ、願いが神様と共に出雲へと旅立っていく)により締めくくられるとういうもの。

地元の人々による出し物や飲食物の販売などもあり、作品を知らない人がみればアニメから生まれたとは思いもよらないほど、今ではすっかり地域に根付いたお祭りにもなっています。

■10年継続に至るまでの舞台裏と、コロナ禍における現状

そうして、アニメ放送終了後も毎年継続開催され続けてきた「湯涌ぼんぼり祭り」は、今年でなんと10周年を迎えます。

しかしそこに至るまでには、「花咲くいろは」の製作関係者、作品ファン、そして地域の人々が共に祭りの開催や継続の方法を模索し、協力して課題と向き合い、経験を蓄積してきた10年間があったことも忘れてはいけません。

そうした、未だ前例のないアニメ発のお祭りが、実在する地域のお祭りとして定着していく10年間の歩みが、この度メモリアルブックとしてもまとめられることになりました。

筆者自身も編集に関わらせていただいていますが、手前味噌ながら、ここでは紙幅の関係で紹介しきれないお話が沢山詰まっていますので、作品ファンの方々だけでなく、アニメの聖地として展開する自治体や観光地の方にも、沢山の気づきがある記念誌だと思います。

湯涌温泉観光協会・ゆわく温泉いろは館(筆者撮影)
湯涌温泉観光協会・ゆわく温泉いろは館(筆者撮影)

こうして10周年というひとつの節目を迎え、今後とも開催の継続を目指す「湯涌ぼんぼり祭り」ですが、例にもれず、現在コロナ禍による影響も多大に受けています。

山間に9件のお宿がたたずむ静かな湯の里”に、毎年5,000人以上もの参加者が集まっていたお祭りということで、感染防止を考慮して、実は昨年、そして今年の第10回「湯涌ぼんぼり祭り」も、2年連続で中止となってしまいました。

開催場所となっている湯涌温泉街も、昨年の感染拡大以降打撃を受け続けており、お祭りの継続もそうですが、ファンにとっては作品聖地であり、毎年自分達を迎え入れてくれる温泉街の現状についても心配な状態が続いています。

■今、出来るひとつの応援方法として

待っている身としてはコロナ禍が明けて以降の開催を祈るしかありませんでしたが、そんな作品・地域のファンが今出来る応援のひとつとして、先日こちらの情報が発信されました。

お祭りの開催自体は中止となってしまいましたが、次回以降の開催を祈念して、全国から募ったメッセージを貼りつけたぼんぼりを、温泉街へ掲出するという呼びかけです。

メッセージを送った人には掲載されたぼんぼりの写真とお礼状が届き、さらに7月10日までの期間限定で、前述した書籍『湯涌ぼんぼり祭り2011-2021 ~アニメ「花咲くいろは」と歩んだ10年~』にもメッセージが掲載される特典がつくとのこと。

お祭り自体のクラウドファンディングは現状ありませんので、こちらに協賛し、メッセージを送ることが、来年以降の開催に向けて今出来る直接的な支援となりそうです。

まだまだ全国的にコロナ禍の影響を受け続けているアニメの聖地ですが、こうした湯涌温泉での取り組みをはじめ、埼玉県では「ヤマノススメ」の聖地・飯能市や、「球詠」の聖地・越谷市でクラウドファンディング(共に現在は終了)が行われるなど、今は直接足を運ぶことができない全国各地のファンも、それらを通じて現地に思いを届けることができています。

依然厳しい状況は続いていますが、互いに無理の無い応援と返礼をしつつ、コロナ明けに向けた作品・聖地・ファンとの関係は、現在もしっかりと続いているようです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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