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「鬼滅」と共に2020年のネット流行語を席巻した「ツイステ」とは?女性人気の高さの理由

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

毎年発表される「ネット流行語大賞100」にて、今年「鬼滅の刃」と並びトップ100中を多くの関連ワードで占めた作品があります。

現在、圧倒的な女性人気を誇るスマホゲーム「ツイステ」こと「ツイステッドワンダーランド」です。

本作は一体どんな作品で、なぜ今そんなにも女性からの支持を特に多く集めているのでしょうか。

◆「ツイステ」とは?

今年3月にリリースされたスマホゲーム「ディズニー ツイステッドワンダーランド」は、「鬼滅の刃」や「Fate/Grand Order」など、数々の人気IPの製作に関わるアニプレックスが送る“ヴィランズ 学園ADV(アドベンチャー)ゲーム”です。

“ヴィランズ”とは、映画や小説などのあらゆる物語において主人公と敵対する悪役達のこと。

本作はタイトルに“ディズニー”とある通り、「不思議の国のアリス」や「リトル・マーメイド」をはじめとする様々なディズニー映画の要素を取り入れながらも、“アリス”ではなく“ハートの女王”、人魚の“アリエル”ではなく魔女の“アースラ”といったように、主人公側ではなくヴィランズに焦点を当てたダークな世界観が構築されているのです。

プレイヤーも、ヴィランズから逃げたり戦ったりするのではなく、彼らが崇高な存在としてたたえられている“ねじれた世界”に身を置いて、物語を進めていくことになります。

◆女性人気の高さの理由

そのゲームジャンルやキャラクター達のビジュアルからは、タイトルを聞くまでディズニー関連のコンテンツと思わなかったという人もいるかもしれませんが、そうした作風からも分かるとおり、本作はディズニー以外にも様々な要素を詰め込むことで、特に多くの女性達を夢中にさせています。

その女性人気の高さの理由は、一体どこにあるのでしょうか。

■ファンの心をつかむ“とっかかり”の多さ

まず挙げられるのが、特にアニメ・漫画・ゲーム・2.5次元といったジャンルが好きな女性ファン達に“馴染み深い要素”が、作品の随所に鏤められているところです。

ディズニーという誰もが知っている要素をはじめ、生徒のキャスト陣には、人気の若手男性声優だけでなく声優業も行う人気の2.5次元俳優が多数起用され、その周りをベテラン男性声優陣が教師役として囲むという射程範囲の広さを持っています。

さらに、ヴィランズや魔法学校といったダークファンタジーの要素に加え、そうした世界観を作り上げる原案・メインシナリオ・キャラクターデザインを、アニメ化・舞台化もされた人気漫画「黒執事」の原作者・枢やな氏が手掛けているのもポイントです。

上記はどれも、メインターゲット層となる女性ファン達にとって、一度は通った経験のあることが多い=比較的“履修率が高い”要素たちでもあります。

本作ではそれらが、深くハマる決定打というよりは、まず作品に手を伸ばしてみるきっかけとして、『〇〇があるならやってみようかな』という“とっかかりの多さ”にもなっているようなのです。

周りへの布教のしやすさにも繋がるこうしたとっかかりの多さは、本作がサービス開始からわずか1年足らずでここまでファン人口を広げた一因にもなっているのではないでしょうか。

■気軽に始めると予想以上にのめりこんでしまう“掘り下げ”要素

もうひとつのポイントとなっているのが、そうして始めは気軽に本作に触れた人達を、深くのめり込ませる“掘り下げの余地”が、これまた多数鏤められているところです。

例えば、主人公の性別を明確にしていないところなどは、本作での学園生活を、ヒロイン側の視点からだけでなく、ゲームキャラたちと同性の学友視点でも満喫できる余地を与えてくれます。

また、程よく提供されるキャラクター達のプロフィールや彼らの関係性を形作る設定——寮制度や所属クラス、部活、家族構成等——は、本筋では語られないキャラクター達の日常やバックグラウンドを想像する余地を与えてくれるため、未だメインストーリーは配信途中ながらも、その行間を掘り下げてキャラや作品の世界観に深くのめり込めるようにもなっているのです。

そしてなにより本作ならではの要素といえるのが、タイトルにもある“ツイステッド”という、元ネタの要素がそのままではなく“ねじれて歪んで鏤められた”パラレルや擬人化とも違う世界観の成り立ちです。

本作には、インスパイア元となった作品の要素が、キャラクターの名前や性格、見た目や生い立ちや言動などに、はっきり“それ”と分かるようにだけでなく『もしかしたらそうなのかな』と、気づくとぞくりとするエッセンスとしても鏤められています。

『この作品のこのキャラを元にしているのだろうな』と、よく分かるキャラクターもいれば、『性格や身分はこのキャラ、名前はこのキャラとこのキャラからではないか』と、インスパイア元の作品にはっきりこれと言える人物がいないものの、作品内の複数の人物の要素を融合したようなキャラクターもいたり…。

そうして出来上がっている世界観も、ファンが“考察で深掘り”しながら、作品の深みにハマっていける要因となっているようなのです。

ガイドブックなどの資料は出始めているものの、まだ本作は、テレビアニメや舞台化といったメディアミックス展開はないため、公式からの世界観の供給はほぼアプリ内で公開された物語とイラストに限られています。

それにもかかわらず、既に多くの女性がここまで深くどっぷりと本作にハマっているのには、こうした掘り下げることで更にキャラや作品に夢中になれる要素が、随所に鏤められているところもポイントになっているのではないでしょうか。

※上記2019年8月にリリースされた動画のため「今冬リリース予定事前登録受付中」とありますがアプリは2020年12月現在既に配信中

現在、アニメや漫画、ゲームや舞台…と、女性人気の高いタイトルは、様々なジャンルで無数に溢れています。

そんな中で、情報を知ったりおすすめされた時に、まず『ちょっとやってみようかな』と思わせてくれる“とっかかりの多さ”は、数ある作品の中から本作に手を伸ばすハードルを下げ、そうして始めてみると実は“掘り下げて遊べる余地”が沢山あることは、気軽に始めた人を、予想外の深みにハマらせて抜け出せなくすることができるのです。

上記も本作が持つ沢山の魅力のうちのほんの一面にすぎませんが、こうした“入るハードルは低いのに沼は深い”という点は、本作が(監督生同様、知らぬうちに迷い込みこちらの世界に帰ってこられなくなる…)女性ファンを増やし、作品が急速に盛り上がっているポイントとなっているのではないでしょうか。

ファン人口が増すことで、現在多くの女性ファン達の間である種の共通言語となり、さらに連鎖反応的に盛り上がりが増している本作。

今後メインストーリーの公開や様々な作品展開が増えていくことで、来年以降も、その勢いはまだまだ増していきそうです。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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