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ネタバレ込で語る劇場版「鬼滅の刃」無限列車編:絶妙すぎる3つのポイント

小新井涼アニメウォッチャー
劇場版パンフレット豪華版パッケージ(筆者撮影)

『大ヒットになるだろう…』と、誰もが予想していた劇場版「鬼滅の刃」無限列車編。

しかし蓋を開けると、3日間で興収は46億、動員数は342万人を突破し、封切と同時に歴代記録を大きく塗り替えるという、公開前の予想をはるかに上回る信じられないスタートを切りました。(2020年10月25日時点)

こうした記録はもちろん、何よりすごかったのは、原作で内容を知っていても、『すごいものがみられるだろう…』と構えていても圧倒される、劇場版そのものが持つ威力です。

今回はそんな本作の、初鑑賞時に思わず感服してしまう『(独断と偏見による)絶妙すぎる3つのポイント』を、ネタバレ有で言及してみたいと思います。

※タイトルにもあります通り、ここから先は劇場版本編に関する重要なネタバレも含みますので、ネタバレを気にする方はもちろん、個人的にはネタバレを気にされない方でも、鑑賞後の閲覧をおすすめします。

■絶妙すぎるポイント1:“神作画”では足りない映像美

本作を語る上で今更映像美に言及だなんて、もうみんなが知っていることだよと言われてしまいそうですが、それでも敢えて最初にこちらを挙げたいくらい、今回の無限列車編の映像はすごかったです。

出だしで『あれまだ実写の予告編?』と見紛う木々の映像、「うまい!」に説得力がある“牛鍋弁当”や、涙が出そうなほど優しい炭治郎の無意識領域、無限列車内外での剣戟やアクション、列車と繋がった魘夢の禍々しさ、猗窩座の破壊殺で展開される術式などなど…。

各劇場版パンフレットなどでも言及されていますが、本作テレビシリーズはもちろん、「衛宮さんちの今日のごはん」や「テイルズ オブ ゼスティリア」、「活撃 刀剣乱舞」や「Fateシリーズ」など、これまでに積み上げられてきた各作品での強味が全部詰め込まれた(例えは乱暴ですが)ufotableさんの大乱闘スマッシュブラザーズとでもいえるような…全力の映像を浴びることのできる2時間でした。

こうした本作の映像の美しさは各所で“神作画”と称されることがあるのですが、間違いではないものの、それでは足りないようにも思います。

というのも、アクションシーンでの目がまわるほどのカメラワークを可能とする3Dや美しい美術、温度を感じる色彩、惹きこまれる画面をつくる撮影処理やエフェクトなど…。手描きの作画もそれはもうもちろん神作画で間違いないのですが、本作の映像が特に素晴らしいと言われる所以は、神作画という良い素材だけでなく、そこへの調理や味付け、盛り付けまでがリッチな料理としての美味しさ、もっと複合的な美しさにあると思うからです。

それもあり、テレビシリーズを含め「無限列車編」の絶妙さである本作の映像美とは、神作画であるのはもちろん(もっといろいろなところを込みで崇めさせてほしいという気持ちを含めて)神映像と称した方がよいのではと、個人的には思います。

■絶妙すぎるポイント2:猗窩座の存在

2つ目のポイントは、何といっても劇場パンフレットや昨夜の「鬼滅テレビ」放送まで、公式では触れられることのなかった上弦の参の鬼“猗窩座”の存在です。

原作未読の方には、キービジュアルや無限列車編というタイトルから魘夢戦を終えそろそろクライマックスかと思いきや、その後の凄まじい一戦と壮絶な結末が劇場で初めて明かされるという。そして原作を知っている人にとっては、全く触れられない猗窩座の存在に、実際に劇場へ足を運ぶまで『出るよね?』『そしてキャストさんは…』と、内容を知っていても新鮮な気持ちで鑑賞ができるという、情報の出し方の絶妙さでした。

何よりすごかったのが、そうして誰がCVなのか気になったまま足を運んだファンが、第一声「いい刀だ」だけで“分かり”、そして納得してしまうキャスティング。これには思わず、心の中で『あー!!!(様々な感情)』と叫んで客席に沈み込みそうになった人も少なくなかったのではないでしょうか。

■絶妙すぎるポイント3:無限列車編を劇場版で

最後の絶妙すぎるポイントは、この無限列車編というエピソードを劇場版にチョイスされた点です。

もちろん、毎週1話ずつ次回を心待ちにしながらでも楽しめるエピソードだとは思いますが、煉獄さんとの初任務出発から魘夢との対決、猗窩座の登場から煉獄さんの最期までを、2時間中断なく一気に劇場で鑑賞できることには、それ以上の威力があったと思います。

テレビアニメの続きを劇場版で描くと、さらにその続きがアニメ第2期以降描かれるとしたら未鑑賞の人の視聴ハードルが上がってしまうため、映画ではオリジナルエピソードが描かれることも多い中、それにもかかわらず本作を劇場版で製作・制作してくださったことや、それを映画館の大画面で一気に鑑賞できる喜びには初鑑賞時改めて感動せざるを得ませんでした。

そもそもテレビアニメの続きで綺麗に2時間程、映画としてのクライマックスも含んだエピソードを原作から切り取ることだって普通ならば難しいと思うのですが、そこは本作を単発の映画として観ても文句のつけどころがないクライマックスを持つ、原作時点でのこのエピソードの力もあったのでしょう。

(※以下一文原作のこの先を匂わせる表現があります)

さらに今後もしこの先がアニメ化されるとしたら、続く大きな任務は本作と同様に原作人気の高いあのエピソードという絶妙さ…。もはや映像化に関して「鬼滅の刃」の盛り上がりは盤石としか言えないような劇場版エピソードのチョイスには、心から感服するしかありません。

そもそもそんな絶妙な点が無くたって、原作漫画がこれだけ流行っていれば、それを映像化したアニメだって評判になるのは当たり前と思われる方も中にはいるかもしれませんが、必ずしもそうではないと思います。

アニメ化とは、単純に原作漫画を動くようにするのではなく、同じ物語を全く違う言語を使って表現するようなものだからです。

そのため同じ感動を伝えるためにも、原語を単純に直訳するのではダメなように、アニメではアニメの言語――上記作画を始めとする映像表現に加え、音響(音楽、効果音、声)など――を使い、セリフやシーンの取捨選択や変換、追加をしながら原作の面白さをアニメ化しています。

もちろんそれも原作の魅力ありきではありますが、そう考えると、劇場版は劇場版でこれだけ評価がされるということは、原作の面白さをアニメという言語で最大限に伝えることができている映画であり、この評判が決して流行っているからだとか、ブームによるものだけではないことが実感できると思います。

よもやここまで読み進めてくださってまだ未鑑賞の方はいらっしゃらないとは思いますが…万がいち『原作知っているからアニメはいいや』と思っている方や、本作にまだ触れたことが無い方がいましたら、ぜひそのアニメ化の妙は実際に劇場で味わってみてください。

※作品制作における各セクションへのインタビューなども最近は増えてきています。ご興味がある方はこちらをみた上でもう一度鑑賞してみるのもおすすめです。

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アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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