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「鬼滅の刃」キャストから覗く:壁は高いが沼は深いボイスオーバーの世界

小新井涼アニメウォッチャー
(写真:アフロ)

◆ボイスオーバーの世界

「ボイスオーバー」は、アニメやゲームの英語への吹替を指す言葉としてよく使われています。サブスクリプションが盛んな昨今、英語圏でも日本のアニメが数多く配信されるようになりました。それと共に、北米での人気の高さをよく耳にする「ONE PIECE」や「NARUTO」、最近では「僕のヒーローアカデミア」はもちろん、こんな最新作まで!?と驚くような作品も、英語吹替と共に幅広く同時配信されるようになっています。(今期は「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」など)

少し前までは、日本のアニメが英語に翻訳されると、言語に合わせてキャラクター名が変えられたり、女性声優が演じる少年役を男性が演じていたり…といった部分が取り上げられることが多く、ただでさえ情報が少なかったのもあり、オリジナル部分を大事にするよりは各地域に合わせて冷淡に作品が作り変えられているような印象を持っている人も多かったかもしれません。しかし近年、配信される作品数やアニメファンが増え、英語版キャストの方々から発信される情報も増えるにつれて、決してそんなことはないという状況がみえてくるようになりました。確かに最低限、文化圏毎のルールやマナーに違いはあるものの、作品への理解やキャラクターを大切にしている様子は、海を越えても変わらないようなのです。

今回は、現在北米で英語吹替版が放送中のアニメ「鬼滅の刃」から、その様子を覗いてみたいと思います。

◆Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba

少し遅れて放送が始まった英語の吹替版「鬼滅の刃(Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba)」は、先週第二十一話の「隊律違反(AGAINST CORPS RULES)」が放送された段階です。もうすぐ柱合会議が始まるということで、先日3月25日には、ついに柱の英語版キャストも発表されました。

呼吸法などは英訳されているのですが、柱”Hashira"やヒノカミ神楽”Hinokami Kagura”など、そのまま使われている単語も多いようです。人物名もオリジナルの名前が使われています。

◆「鬼滅の刃」英版メインキャスト

あくまで北米地域に向けた配信・放送なので、日本では英語吹替版で本編を視聴する方法は無いのですが、公式アカウントやキャストの方々のSNS投稿から、英語版の音声を視聴することが可能です。こちら第十四話の次回予告では、主要キャラクター達の声を実際に聴くことができます。

また、「鬼滅」本編の視聴は難しいものの、出演キャストの方々の声は、日本でも英語吹替版が視聴できる他の作品で聴くことが可能なので、合わせて紹介していきたいと思います。

英語版の竈門炭治郎を演じるのはZach Aguilar氏です。

ご本人のSNSには、番組ファンとして、英語版の炭治郎を担当できる喜びや収録時の写真、オンエアされた本編へのコメントなどが投稿されています。

「鬼滅」以外では、アニメ「Fate/Apocrypha」で同じく花江夏樹氏が演じられたジークや、Netflixオリジナルアニメ「Levius-レビウス-」の主人公・レビウス=クロムウェル、「斉木楠雄のΨ難 Ψ始動編」の海藤瞬を英語版で担当されています。この3作品は日本でもNetflixで英語版の音声視聴が可能です。

  

竈門禰豆子を演じるのはAbby Trott氏です。

他の作品では「モブサイコ100」の米里イチや「リラックマとカオルさん」の5話に登場するオバケちゃんの英語版等を演じられています。ゲームも含めた各キャラクターの声はご本人のHPでも視聴が可能です。

SNSには、収録ブースで竹筒を加えている様子や…(実際は竹ではなく指を使って収録しているそうです)

 

禰豆子ではなく、チュン太郎役として出演した第十一話を、出演キャストと共に視聴した時の様子などが投稿されています。

 

第十一話関連では、演じたご本人達によるこんな再現写真も公開されていました。

「色々な意味で海外ならではのアプローチ」であるだけでなく、キャスト陣同士の仲の良さや作品を楽しんでいる様子も伝わってきます。

我妻善逸を演じるのはAleks Le氏です。

ご本人のSNSには、善逸が本格的に登場する第十一話が、英語版ではどのように演じられたのかがよく分かる映像が投稿されています。

叫び声からしょんぼりした話し方まで、キャラクターに注ぐ凄まじい熱量が伝わってきます。

日本では他に、Netflixで配信中の「虫籠のカガステル」英語音声にて、主人公・キドウを演じられている声を視聴することができます。

嘴平伊之助を演じるのはBryce Papenbrook氏です。

「進撃の巨人」のエレン・イェーガーや「ダンガンロンパ」シリーズの苗木誠、狛枝凪斗等、数々のアニメやゲームで英語版の主要キャラクターを担当されています。日本では「ソードアート・オンライン」にて、同じく松岡禎丞氏が演じられているキリトや、「斉木楠雄のΨ難 Ψ始動編」の明智透真、「ケンガンアシュラ」の今井コスモ等を演じられた際の英語版の吹替音声を、Netflixにて視聴することが可能です。

SNSでは、アニメイベントで伊之助パネルと共に写真を撮る姿や…

「かまぼこ権八郎」のセリフをちらっと聴ける動画をみることができます。

 

冨岡義勇を演じるのはJohnny Yong Bosch氏です。

「コードギアス 反逆のルルーシュ」のルルーシュ・ランペルージや「BLEACH」の黒崎一護、最近では「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」のゲストキャラクター・ナイン等、多くの有名キャラクターの英語版音声をはじめ、ゲームのモーションキャプチャーや実写の特撮ヒーロー等も担当されてきました。

SNSでは、キャラクターの誕生日に羽織とケーキと共にお祝いをする姿をみることができます。

キャラの誕生日をお祝いする文化はこちらでも共通なようです。

他に日本ではゲーム「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」のSteam版にて英語音声を選択することで、主人公・日向創を演じる音声を聴くことができます。

またJohnny氏は、昨年日本に英語吹替版が”逆輸入”された「プロメア」でリオ・フォーティアを演じたことでも注目を集めていました。

「プロメア」関連では、他にガロ・ティモスを演じたBilly Kametz氏が累役で、クレイ・フォーサイトを演じたCrispin Freeman氏が悲鳴嶼行冥役で「鬼滅の刃」英語吹替版に出演されています。

 

柱の中では冨岡義勇と共に先んじてキャストが発表されていた胡蝶しのぶ役は、Erika Harlacher氏が担当されています。

「ペルソナ5」の高巻杏役の他、従来ならば男性がキャスティングされていた役どころである「HUNTER×HUNTER」のクラピカ役を、オリジナルと同様に女性が演じる少年声で担当された方です。

日本ではNetflixにて、「賭ケグルイ」の英語吹替版で主人公・蛇喰夢子役を演じられている声が視聴可能となっています。

◆高い壁と深い沼、日英の違いと共通点

言語を始め、各キャストの方々のSNS運用等に日本との違いはあるものの、こうしてみると、オリジナルを尊重した上での翻訳が行われていたり、キャラクターの誕生日を祝ったり、(アニメのアフレコはひとりずつ行われることが多いらしいにも関わらず)キャストが集まってアニメの鑑賞会を開いたり…と、海を越えた先でも、変わらず作品やキャラクターが大事にされていることが伝わってきます。

また、昨年日本の制作会社がキャスティングを監修したことなどからファンの注目が集まり、”逆輸入”が実現した「プロメア」の英語吹替版では、キャスティングのみならず、セリフの翻訳や、日英のお芝居の違いを楽しむファンの姿もあり、純粋に英語吹替版への関心の高さというのもうかがえました。優劣の比較や批判ではなく、日本語版と英語版の両者を聴き比べて2倍楽しんだり、日本以外ではどんな人たちが作品に関わりどのような形で現地のファンに作品が届けられているのかを知ることができるのは、日本語圏のファンにとってもなかなか興味深いことなのだと思います。

日本ではNetflixで英語吹替版が配信されたり「プロメア」のように逆輸入されない限り、視聴できる機会はどうしても限られてしまいますが、上記のように、SNSの公式アカウントやキャストの方々の投稿から、情報を集めることは十分可能です。

(英語が苦手でも、各社翻訳機能の充実はもちろん、日本語での映像を繰り返しみているのもあってか、不思議なことに通常のリスニングと違って好きな作品の音声だと自然と耳に入ってくるので情報収集も大いに捗ります)

視聴機会の少なさや言語の違いといった壁はまだまだ高いものの、実は探れば探るほど沼が深いボイスオーバーの世界の一端を、新しいアニメの楽しみ方のひとつとして、好きな作品をきっかけに、覗いてみるのも面白いのではないでしょうか。

※先に挙げた通り、基本的に英語吹替版は日本以外の地域に向けたコンテンツであるため、日本で視聴する場合は日本国内で正式に視聴が可能となっているトレーラーや作品本編のご視聴を推奨します。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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