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ティモシー・シャラメとティルダ・スウィントンのレカペ・ファッションでカンヌは大盛り上がり!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
カンヌでのシャラメ&スウィントン(写真:REX/アフロ)

 今月6日に開幕した第74回カンヌ国際映画祭も、中日を過ぎた昨日、コンペ部門の最大の目玉である『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(日本では来年公開予定)のワールド・プレミアが開催され、ムードは最高潮に。現役監督の中でも優れたアートワークで他を引き離しているウェス・アンダーソンの最新作である。コロナ禍の影響で先延ばしにされてきた本年度最大の話題作が、本来の場所で映画の目利きたちに遂に披露されたわけである。

“20世紀フランスの架空の街にある米国新聞社の支局で活躍する才能豊かな編集者たちの物語”とだけ紹介されてきた映画への評価は後で記すとして、まず取り上げたいのは昨日、カンヌのレッドカーペットに登場したファッションについてである。主役は、『フレンチ~』で初共演を果たしたティモシー・シャラメとティルダ・スウィントンの2人。シャラメは『君の名前で僕を呼んで』(‘17年)で、スウィントンは『ミラノ、愛に生きる』(‘09年)ほか計4本で同じルカ・グァダニーノ監督作品に出演している”グァダニーノ繋がり”だが、ファッションに関しても同じ価値観を共有していることが今回、改めて明らかになった。

トム・フォードでサングラスだったティミー@カンヌ
トム・フォードでサングラスだったティミー@カンヌ写真:REX/アフロ

 すでに多くのメディアが挙って取り上げているのは、トム・フォードのメタリックな2ピース・スーツの下に、白いボタンダウンのシャツと同じく白いヒールブーツを合わせ、ロックスターのような黒いサングラスでメディアの前に現れたティモシー・シャラメだ。これまでも、ルイ・ヴィトンのビーズ付きハーネスや、ブラダのブルゾン・スーツ等、従来のメンズ・フォーマルの概念を打ち破ってきたシャラメが、今年のトレンドであるメタル素材を選んだのはさすがだが、驚いたのは、選んだブランドがここ数年コラボしてきたハイダー・アッカーマンではなくトム・フォードだったこと。アッカーマンと言えば、かつてベルルッティの専任デザイナーだった頃に、『君の名前で~』で初のオスカー候補になったシャラメのために、カスタムメイドの全身白いスーツを提供して以来、互いに”兄弟”と呼び合う仲にある。一昨年のベネチア国際映画祭でシャラメが着ていたシャイニーグレーのベルト・スーツもアッカーマンがデザインした逸品だ。フォーマルな席でもノータイとハイカットブーツで通すスタイルは、アッカーマンとシャラメが提案してきたメンズ・フォーマルの新機軸と言えるもの。それは、コレクションのランウェイに男女のモデルが同じコートを羽織って交互に登場することに象徴される、ファッションのジェンダーフリー化の現れであることは言うまでもない。そんなシャラメも今年の暮れで26歳になる。カンヌでの彼を見ると、『君の名前で~』の頃の少年の面影はすでになく、独特の男らしさを強調したトム・フォードのスーツが似合う年頃を迎えているのは明らか。長いコロナ禍の間に彼は着実に成長を遂げていたのだ。

ハイダー・アッカーマンでキラキラ袖だったティルダ@カンヌ
ハイダー・アッカーマンでキラキラ袖だったティルダ@カンヌ写真:REX/アフロ

 一方、レッドカーペットでシャラメと仲良くカメラに収まったティルダ・スウィントンは、もっと前からファッションをイノベートして来たセレブリティを代表するこの分野の開拓者だ。そんな彼女がカンヌ用にチョイスしたのは、偶然か否か、シャラメがスルーしたハイダー・アッカーマンのカラフルなアンサンブルだった。ドロップド丈のピンクのサテンボレロに、オレンジのスカートを合わせ、ブレザーの下にはスパンコールの袖が覗く斬新なコーデはアッカーマンならではのもの。実は、スウィントンとアッカーマンはアッカーマンがシャラメと出会う前から、お互いを”プレイメイト”と呼び合う仲。2011年カンヌ国際映画祭でのサテンドレス、2012年ゴールデングローブ賞での水色のドレープドドレス、2019年カンヌ国際映画祭でのメタルシルバー・ドレス等、過去にも2人はドレスを通してレッドカーペット上に革命を起こしてきた。

3年前のティミー@オスカーナイト
3年前のティミー@オスカーナイト写真:Shutterstock/アフロ

 シャラメ→アッカーマン←スウィントンという関係が、カンヌのレッドカーペットにどんな影響を与えたかは不明だが、少なくとも、ファッションに関してはリスクを恐れない2人の装いが、相変わらず王道のビスチエ・ドレスと定番のブラック・フォーマルが主流だった今年のカンヌを大いに盛り上げたことは確かだ。もちろん頼まれたわけではないが、2人にはファッションのパルムドールを贈呈したいと思う。なぜなら、彼らは映画ファンがしばらく忘れていたレッドカーペットの楽しさを思い出させてくれたのだから。

 さて、『フレンチ・ディスパッチ~』のカンヌでの評判だ。終映後、会場内に巻き起こった拍手とスタンディングオベーションは、今年最長の9分間に及んだとか。主なレビューを拾ってみよう。『ウェス・アンダーソンの最新作にはファンが期待するすべてのものが詰まっている~BBC.com』、『愛情がこもったジャーナリストへの敬愛でアンダーソンの魅力が倍増~indieWire』、『素晴らしいビジュアル、たくさんの笑い、そしてビル・マーレイ等Aリストスターの魅力~Guardian』、『サーチライトの魅力的な骨董品であり、他の映画製作者たちが作成できなかった作品~Hollywood Reporter』等々。大絶賛が並ぶ。それは、レッドカーペット・ファッションの復活と同じく、話題作の公開を待ち侘びていた映画ファンの期待に応える出来栄えであることを証明している。因みに、途切れないスタンディングオベーションの中で、スウィントンが座席の背に貼られていた自分の名前を書いた紙を、シャラメの背中に貼り付けてじゃれ合う様子がしっかりリポートされているので、気になる方はそらちもチェックしてみて欲しい。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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