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『君の名は。』のハリウッド実写版リメイク『Your Name』の監督が遂に決定か

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
サンダンス映画祭でのリー・アイザック・チョン(右)とスティーブン・ユァン(写真:REX/アフロ)

新海誠の映像美と展開力をどう実写化するのか?

 日本では連休の最中、ハリウッドからビッグニュースが飛び込んできた。3年前の9月にハリウッドでの実写リメイクが発表されて以来、全世界の映画ファンが注視して来た『君の名は。』の監督が決定したという。この度、映画業界、及びレビューのウェブサイト、IndieWireなどが報じたところでは、韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンがメガホンをとることになった。チョンは当初、監督する予定だったマーク・ウェブの後任に就任したと見るべきだろう。既報によると、実写版ではアメリカの田舎に住んでいるネイティブアメリカンの少女と、シカゴからやって来た少年の体が入れ替わるところから物語が展開する。新海誠が構築したアニメーションならではの映像世界が、実写としてどう説得力を持ち、アップデートされるのか?映画の運命は監督の才能に託されたと言っていい。

リー・アイザック・チョンの劇的なキャリア

 さてそこで、リー・アイザック・チョンとはどんな人物で、これまでどんなキャリアを辿った来たのかを紹介したい。1978年10月19日、韓国系移民の息子としてアメリカのコロラド州、デンバーで生まれ、その後、アーカンソー州のリンカーンの小さな農場で育ったチョンは、生物学を研究するために名門、エール大学に入学するが、大学4年の時に医学部への進学を断念。一転、映画製作の道を目指すことになる。そして、ユタ大学で映画製作のノウハウを学び、2004年に修士号を取得する。

 それ以降、彼は映画監督としてキャリアを一気に積んで行く。初の長編監督作『Munyurangabo』(07)はアフリカ、ルワンダの若者たちの力強く、感動的な姿を描いた作品で、2007年のカンヌ映画祭でプレミア上映された際、ヴァラエティ誌は「驚くべき、完全に傑出した作品」と評し、著名な映画評論家、ロジャー・エバートも「美しくパワフルな傑作」と称賛を惜しまなかった。凄いのは、この映画の製作を機に、チョンはルワンダの映画製作者たちと提携し、当地に映画製作会社とアカデミーを設立し、成功を収めていることだ。また、監督第2作の『Lucky Life』(10)は末期癌と診断された親友を励ますために、友人たちが旅行を計画するヒューマンドラマで、こちらもカンヌ、トライベッカ、トリノの各映画祭でプレミア上映されている。

監督抜擢の決定打になったと思しき『Minari』はサンダンスでW受賞

 そして恐らく、今回の大抜擢の要因になったと思われるのが、今年1月のサンダンス映画祭で上映され、見事グランプリと観客賞をW受賞したチョンの最新作『Minari』だ。PLAN Bが製作し、A24がアメリカでの配給を受け持つ同作は、チョンの半自伝的な物語だ。カリフォルニアからアーカンソーに引っ越して来た韓国人一家を主人公に、異国の地に根を張ろうとする父親とその家族が、相次ぐ希望と挫折の中で、アメリカンドリームの意味を自らに問いただすというプロットは、まさにチョン自身が身を以て経験したことに違いないからだ。自然主義とメロドラマが巧みに混在する物語が、終盤で強烈な展開を見せる映画全体の構成も見事で、監督のみならずチョンが執筆した脚本も高く評価されている。また、主人公の父親、デビッドを演じるスティーブン・ユァンの印象的な演技も、ロサンゼルス映画批評家協会賞の助演男優賞を受賞した『バーニング 劇場版』(18)と比較され、注目の的だ。ユァンはブラッド・ピットと共に製作者欄にも名を連ねている。一家が住むトレーラーハウスに家族の歴史を刻んだプロダクション・デザイナー、ヨン・オク・リーが、前作『フェアウェル』(19)に続いて見事な美術を考案している点も見逃せない。

韓国人または韓国系映画関係者たちの目覚ましい活躍

 話題のハリウッド・リメイク『君の名は。』は、すでに映画サイトIMDb上に『Your Name』のタイトルでリー・アイザック・チョンの次回作として記載されている。同作はチョンが監督と脚本を兼任し、バッド・ロボットのJ.J.エイブラムスと川村元気がプロデューサーを務め、東宝が日本での配給を担当し、ハリウッドメジャーのパラマウント・ピクチャーズが他の地域での公開を予定している。

 このニュースに接して今更ながら改めて感じるのは、リー・アイザック・チョンやスティーブ・ユァンを始め、多くの韓国出身の映画人や韓国系アメリカ人たちが、ハリウッドの土壌に広く深く根を張っていること。因みに、『Minari』とは、どこに植えても成長することができる韓国のハーブの名前である。

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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