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ドライブインシアターはコロナ時代を生きる映画ファンを集められるか?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは『ワンハリ』に登場したのがブーム再燃のきっかけか

 コロナ時代の映画鑑賞はどうなるか?一般映画ファンはストリーミング、映画祭はオンラインという傾向が強まりそうだが、ここに来て改めて注目されているのがドライブインシアターだ。1930年代に車社会のアメリカで誕生し、全盛期には全米で4000館を超えたが、その後、時代の変化と共に衰退し、現在では300館超にまで減っているというドライブインシアター。しかし、去年、『ワンス・アポン・イン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)でブラッド・ピット演じるスタントマンのクリス・ブースが、ドライブインシアターの脇に停車したトレーラーハウスを根城にしていたことから、若い映画ファンの間で俄然話題の的に。そこに、新型コロナウイルスの影響によるソーシャル・ディスタンシングが叫ばれ始め、この概念にマッチしたドライブインシアターの需要がにわかに高まりつつある。

I MAXとデ・ニーロのトライベッカが協力

 これに対応したのがトライベッカ・エンタープライズとI MAXだ。両社は去る5月6日、全米の各州で”Tribeca Drive-In”と銘打ったプロジェクトを展開すると発表。同プロジェクトでは、厳選された映画の上映だけでなく、音楽やスポーツイベントを計画しているという。情報通信の大手、AT&Tも加わるこの企画は、地元のベンダー(販売配給元)と協力して中小企業をサポートし、各地域にユニークな体験を提供することが目的だ。中でも、映画ファンにとって期待できるのは、I MAXのデジタルテクノロジーと、トライベッカが所有する膨大な映画のアーカイブとキュレーションの融合だ。”Tribeca Drive-In”のスタートは6月25日。プログラムのラインナップとチケット情報は今後数週間以内に発表されるという。

 トライベッカ・エンタープライズの共同創設者である俳優のロバート・デ・ニーロはこう語る。「この夏がとても楽しみだ。地域の人々に共に映画を観るという古典的な楽しみを提供できることに興奮している」と。また、I MAXのCEO、リッチ・ゲルフォンドは、「この革新的なプログラムによって困難な時期に少しでも光を当て、人々に映画館で映画を観るという魔法のような体験を思い出してもらいたいと思う」とコメント。彼らの言葉からは、ドライブインシアターの開設はやがて来るであろう映画館の再開を念頭に置いたものであることが分かる。

韓国ではドライブインシアターが全国に20館もある

 一方、コロナ対策では世界に先んじる隣国の韓国では、全国で約20館のドライブインシアターがすでに営業中だ。ドライブスルーでのPCR検査が早い時期に起動した理由もそこにあるのかもしれない。首都ソウルでは1館、中西部の行政区、京畿道では9館が営業していて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、映画館が営業停止になった際には、京畿道の安城市では週末のみのドライブインシアターがオープン。また、仁川港に停泊中のクルーズ船がドライブインシアターとして改装されたという驚きのニュースもある。

日本ではクラウドファンディングがスタート

 さて、日本はどうか。すでに2つのプロジェクトが始動している。まず、オリジナルの移動式巨大スクリーンを用いた野外映画イベントの企画、制作をプロデュースする”OUTDOOR THEATER JAPAN”では、駐車場やスペースを活用してドライブインシアターを実施したい企業や団体を募集中だ。同社は、昨年10月に東京、調布の多摩川河畔で「CHOFU RIVER SIDE CINEMA 2019」を開催し、多摩川の開放的な空間で映画と音楽とフードを提供。上映されたのは『ボヘミアン・ラプソディ』(18)だ。前年の2018年には同じ場所で『ピーターラビット』(18)が上映されている。また、 シアタープロデュースチーム”Do it Theater”は、ドライブインシアターの実現を目指す「Drive in Theater 2020」プロジェクトのクラウドファンディングをすでにスタートさせている。同プロジェクトは新型コロナウイルス感染予防の啓発と、映画を始めとするカルチャーの活性化を目的とし、クラウドファンディング・プラットフォーム”MOTION GALLERY”を利用して、ドライブインシアターの中長期的な継続を目標に、広く支援を募っていく。第1回のドライブインシアターは5月以降、2010年に閉館となった大磯ロングビーチ第一駐車場での実施を目指す。ここで集まった資金は世界保健機関(WHO)及び国連財団による”COVID-19 連帯対応基金”、”SAVE THE CINEMA”活動の一環である”ミニシアター・エイド基金”への寄付としても活用される。

 今、映画はどんな方法で観られるか。そこで選択肢を狭めないことが、やがて劇場の全面的な開館に繋がると思えば希望の光が見えてくる。これも新型コロナウイルスがもたらした”ニューノーマル”の一つかもしれない。

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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