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第1作以来のリアルタイマーが今『スカイウォーカーの夜明け』を観て思うこと。

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
12月18日に行われたロンドン・プレミアでのデイジー・リドリー(写真:REX/アフロ)

 今週、世界中でほぼ同時公開された『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を観て、40年以上に渡って紡がれてきたサーガの終焉に感慨一入の映画ファンは多いはずだ。幾度となく途切れそうになった壮大な物語を、挫けず、果敢に受け継いできた製作者や監督、俳優たちに心から感謝の意を表したい。第1作『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』(77)以来、日本公開時にその都度作品と対面して来たリアルタイマーの筆者が、今思うことを以下に記してみたい。

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 まずは、物語の最後に相応しく、シリーズのクライマックスを牽引して来たヒロイン、レイや、相対するレン等、新世代キャラクターと、かつて(そして今も)キーパーソンとして存在するレイア、ルーク、故ハン・ソロの友人、ランド・カルリジアン等、前世代メンバーをほぼ総動員して、過不足のないシリーズ最終章になっている点に納得する。既報の通り、レイはここで出生の秘密を知ることになるが、その過程で彼女はもう一度、レイアやルークから授かったフォースの意味を自覚し、一方、祖父ダース・ベイダーに傾倒し、銀河を支配するために実の父、ハン・ソロをその手で殺めてしまったレンも、自らに課せられた過酷な運命と真剣に向き合うことになる。そのプロセスで、ファンは世代に関係なく、クライマックスへと向かう物語の行方を見守りつつ、懐かしい顔と出会うことで記憶を呼び覚まされ、彼らが今もしっかりと話の中枢にいることを確認することができるのだ。特に、残念ながら前作『最後のジェダイ』(17)に出演後、この世を去ったレイア役のキャリー・フィッシャーが、生前に遺したフッテージの背景とワードローブ、それに髪の毛の色をデジタル処理し、レイ役のデイジー・リドリーと渡り合う場面は、ハリウッド最新の映像技術に感謝して余りあるほど。それは、銀河の平和を独裁者から死守するための全9作を束ねるキーパーソンが、結局、レイア=フィッシャーだったことを改めて痛感する瞬間だ。

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 一方、デイジー・リドリーの美しさは前2作を遥かに上回る。『フォースの覚醒』(15)でシリーズにデビューした頃の初々しさに、物語を牽引する責任からか、不思議な自信が加わり、削げ落ちた頬と尋常ではない目の輝きは、もはやスターの趣。そして、それ以上に、レン役のアダム・ドライバーが圧巻の存在感を発揮する。悪に取り憑かれた表情が、その表情のまま、心が溶解していく演技は、今最も勢いがある若手演技派ならでは。逸材をいち早く発掘し、スターダムに押し上げて来た『スター・ウォーズ』シリーズが、最後に掘り当てた鉱脈が、リドリーとドライバーだったのだ。また、レイと運命を共にするフィン役のジョン・ボイエガ、レジスタンス飛行隊のリーダー、ポーを演じるオスカー・アイザック、レジスンタスに加わる新キャラクター、ジャナ役でシリーズデビューを飾るナオミ・アッキー、警備クルー、ローズ・ティコ役のケリー・マリン・トラン等、様々な国にルーツを持つ脇役たちは、特にここ数年、ハリウッドが目指すダイバーシティを体現する存在。チャレンジングなキャスティングはそのまま、本当のルーツに関係なく、チームまたは家族(または映画)は成り立つという作品のテーマと見事に重なるのだ。

 今年4月、74歳で他界した俳優、ピーター・メイヒューから受け継ぎ、『フォースの覚醒』以来、身長212センチのフィンランド人俳優、ジューナス・スオタモが演じるチューバッカ、C-3P0、R2D2等、お馴染みのキャラに、BB-8と相棒のD-Oが加わったドロイドたちにも、均等に出番はあるのでご心配なく。

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 最大の立役者は、『フォースの覚醒』で初めてメガホンを受け取り、続く『最後のジェダイ』では製作総指揮という立場で製作をコントロールした後、一旦は他者に移った監督と脚本を再度受け持ったJ.J.エイブラムスではないだろうか。受けるべきか断るべきか迷ったというエイブラムスは、結局「人生で最大のチャレンジをスルーすべきでない」という結論に達し、現場に復帰したという。それは、とてもリスキーな決断だったと思う。これまでも、そして、今後も長く続くであろう、偉大なハリウッド・レガシーのリメイク、リブートの流れは、新人、ベテランに関係なく、監督する人間のキャリアを大きく左右するに違いないからだ。J.J.はとりあえず任務を遂行した。人物を上手に配置し、家族という今日的なテーマに落とし込んだ脚本と、宇宙戦争のダイナミズムのみならず、新たなアクションシーンを取り入れたディレクションに於いて。中でも、今作で初めて登場する戦闘機の意外なスキルと、ワイヤーワークを使った格闘シーン、そして、誰もが想像していなかったであろう”海洋アクション”は、シリーズを熟知するファンをも満足させるはずだ。映像のネタは尽きたと言われるSF活劇も、アイディアによっては鮮度を増すことを証明したのが、”最後のスター・ウォーズ”である『スカイウォーカーの夜明け』。40年超の『スター・ウォーズ』の歴史に想いを馳せつつ、今後も続いて行くあらゆるフランチャイズ映画の未来を出来る限り見届けたい。そんな思いを新たにした2時間21分であった。

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『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』

12月20日(金) 全国公開中

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(C) 2019 and TM Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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