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友情はどこにでも生まれる。『最強のふたり』のリメイク版が改めて心に染みる理由

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

 アメリカ国外で話題になった映画をハリウッドがリメイクする。評価は賛否両論あるが、オリジナルの良さを知っている映画ファンは見ないわけにはいかない。近年で注目されたハリウッド・リメイクをざっと挙げてみよう。香港映画の『インファナル・アフェア」(02)をマーティン・スコセッシがリメイクし、彼に初のアカデミー監督賞をもたらした『ディパーテッド』(06)、カンヌ映画祭グランプリに輝いた韓国映画『オールド・ボーイ』(03)を、スパイク・リーがジョシュ・ブローリン主演でリメイクした『オールド・ボーイ』(13)、アラン・ドロンを世に送り出したフランス映画『太陽がいっぱい』(60)を、マット・デイモン主演で再映画化した『リプリー』(99)、フランス映画の『アントニー・ジマー』((05)をジョニー・デップ×アンジェリーナ・ジョリーでリメイクした『ツーリスト』(10)等々。このリストに近々、日本アニメの歴史的ヒット作『君の名は』(16)を基に、J・J・エイブラムズがプロデュースし、マーク・ウェブが監督する実写映画『Your Name』(公開未定)が新たに加わることになるわけだ。

『最強のふたり』フランス版とハリウッド・リメイクの違い

 さて、暮れに公開される『THE UPSIDE/最強のふたり』(19)も同じジャンルに属する話題作だ。言うまでもなく、母国フランスでは観客動員数歴代3位を記録した『最強のふたり』(11)のリメイクである。フランス人の3人に1人は見たという桁外れのヒット作だが、日本でもそれに近い記録を残している。まず、第24回東京国際映画祭で最高賞の東京サクラグランプリと主演男優賞(フランソワ・クリュゼ&オマール・シー)をW受賞。さらに、映画が公開されるや、フランス映画としては『アメリ』(01)を超える16億5000万円の歴代最高の興収記録を達成している。つまり、この物語には国籍に関係なく、人々の心を熱くする要素があるのだ。

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 まずは、オリジナル『最強のふたり』の舞台はパリ。パラグライダーの落下事故が原因で下半身が麻痺し、他人の介護なしには生活できない富豪のフィリップ(F・クリュゼ)から新しい介護人に指名されるのが、スラムで暮らす貧しいアフリカ移民の青年、ドリス(O・シー)だ。フィリップがドリスを気に入ったのは、他の介護士にはない乱暴だが正直な言動が新鮮だったから。絶望をユーモアでカバーしたいフィリップと、端から彼を普通の友達として扱うドリスの間には、周囲の心配をよそに立場を超えた友情が育まれていく。セザール賞に輝く名優のクリュゼと、フランスではコメディアンとして圧倒的な人気を誇るシーの、まるで水と油のように異なる個性が、次第に溶け合っていくプロセスは、オリジナル最大の見どころ。監督のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュのコンビが、重要なテーマとして扱うフランスの移民問題が、友情の尊さを余計に強調している。

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 一方、ハリウッド・リメイク版の舞台はニューヨーク。スラム街で暮らす主人公のデルが、パークアベニューのペントハウスに住まう大富豪、フィリップの介護をすることになり、2人はぎこちないなりに、互いを頼り、尊重し合う間柄になっていく。ここには、パリにあった移民問題の闇こそないが、環境や価値観の違い、ハンデのあるなしを超えて、真逆の立場にいる人間同士が、心の中では対等な関係を築いていく様子が、フランス版に引けを取らないテンポで描かれている。展開はオリジナルとほぼ同じと考えていい。実は、本作は『最強のふたり』のリメイクとしてはインド映画『Oopiri』(16)と、アルゼンチン映画『Inseparables』(16)に続く3本目。この作品のテーマがいかに世界共通かがよく分かる。

絵空事に感じさせない本物が実在するというアドバンテージ

 ハリウッド版でデルを演じるのは、クリス・ロックやイドリス・エルバを退けて指名されたコメディアンのケヴィン・ハート。コリン・ファースも候補に挙がっていたフィリップ役は、TVシリーズ『ブレイキング・バッド』(08~13)で演技賞を総なめにしたブライアン・クランストンが演じる。フランソワ・クリュゼ&オマール・シー、ブライアン・クランストン&ケヴィン・ハート、そして、他の作品の主演俳優たちも含めて、この物語が実在の人物をベースにしていることに感謝しなくてはいけない。フィリップのモデルは1993年に起きたハンググライダー事故で頸髄損傷を大怪我を負った大富豪のフィリップ・ポッツォ・ディ・ボルゴで、デルのモデルはアルジェリア出身のアブデル・ヤスミン・セロー。オリジナル版のラストで変わらぬ友情で結ばれている姿が紹介された2人だ。そもそも、2人にインタビューしたTVドキュメンタリーを、監督のトレダノとナカシュが見たことがきっかけに、映画『最強のふたり』は作られた。ともすると、絵空事に見える物語が、事実を基にしているという”最強のアドバンテージ”を得て多くの人々を感動させる。結果、合計3本のリメイク映画が製作され、最新のハリウッド版も、今年1月に全米公開された際、それまで興収トップに君臨していた『アクアマン』(18)を首位から引きずり下ろす快挙を達成している。

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ハリウッド・リメイクは使われる音楽が違う

 オリジナルでは、オマール・シー演じるドリスが、管弦楽団が呼ばれた大広間に、大音量でアース・ウィンド・アンド・ファイアーの”ブギー・ワンダーランド”をかけて、いつも気取っている介護スタッフや使用人たちをダンスに引きずり出すシーンが、最高に楽しかった。そして、ハリウッド版では、大切な場面で今は亡き”クィーン・オブ・ソウル”アレサ・フランクリンが歌う、ある名曲が印象的に使われている。そこには、作品の重要なメッセージである異文化の融合が象徴的に描かれていて、少し遅れてきたハリウッド・リメイクに技ありを贈呈したい。

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『THE UPSIDE/最強のふたり』

12月20日(金)全国ロードショー

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公式ホームページ

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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