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秋から暮れにかけて出演映画3連発!!ティモシー・シャラメが止まらない

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
(写真:REX/アフロ)

『君の名前で僕を呼んで』(18)以来、ティモシー・シャラメ旋風が収まらない。今年はドラッグ依存に苦しむ青年の葛藤を描いた『ビューティフル・ボーイ』(18)で、昨年に引き続き賞レースを賑わせたシャラメ。他にも、少年の無軌道な夏を追いかけた『ホット・サマー・ナイツ』(17)、産業革命後の開拓地を舞台にしたクリスチャン・ベール主演の西部劇『荒野の誓い』(17)、また、超能力を持って生まれてきた少年の葛藤を描いた『シークレット・チルドレン 禁じられた力』(15)等、ブレイクスルー以前の出演作が、アメリカの公開から約1年、作品によっては数年遅れで相次いで日本公開された。それだけ、彼を市場が求めている証拠だ。

『マイ・ビューティフル・デイズ』
『マイ・ビューティフル・デイズ』

 この流れは今後も続く。日本公開を間近に控える『マイ・ビューティフル・デイズ』(16)は、タイトルこそ鮮度はないものの、『君僕』前のシャラメが、行動障害を持った影のある高校生に扮して、抜群の個性を発揮する知られざる青春映画の佳作だ。同じく、他者と上手に折り合えない女性教師の視点で描かれる物語は、シャラメが演じるビリーとのやり取りを通して、人は誰でも問題を抱えていて、それを克服するのに立場や年齢差は関係ないことを観客に教えてくれる。劇中、高校の演劇コンテストに参加したビリーが、舞台に立って圧倒的な表現力で観客を魅了する場面でのシャラメを見て、改めて、彼の類い稀な演技センスを実感するファンは多いはずだ。それは、ある意味『君僕』のラストで見せた号泣シーンにもつながるもの。ティモシー・シャラメの演技の変遷を知るためにも、19歳の彼が出演した『マイ・ビューティフル・デイズ』は必見だ。

『キング』
『キング』

 同じく11月1日に全世界同時に配信がスタートするNetflix映画『キング』(19)は、シャラメが実在の英国王、ヘンリー5世に扮して、意に沿わぬまま王位を継承した若き王が、年老いた親友の騎士(ジョエル・エドガートン)と共に、戦乱の時代へと漕ぎ出していく自身初の歴史劇だ。甲冑を身に着けた悩めるキング役は、作品のジャンルは初でも、シャラメ得意の心理演技の独壇場。前髪の長さを揃えた15世紀当時のヘアスタイルで現れ、得意のフランス語を巧みに操るシャラメは、「15世紀を生きた王の心の深層に分け入ることは最高に楽しかった」とコメント。もしかして、『キング』は彼の俳優キャリアの分岐点になるかもしれない。

『リトル・ウィメン』では強者女優たちと渡り合う

 ウディ・アレンの『A RAINY DAY IN NEW YORK』(19)は今秋世界各地で公開されたものの、アメリカでの公開は未定のままだが、続く『リトル・ウィメン』は今年クリスマスに全米公開される。ルイーザ・メイ・オルコットの原作を、『レディ・バード』(17)のグレダ・ガーウィグが監督する同作で、シャラメは南北戦争下で慎ましく暮らす4姉妹と深く関わる隣家の青年、ローリーに扮して、メリル・ストリープ、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン等、強者たちと渡り合う。Entertainment Weeklyの取材をシャラメと一緒に受けたローナンは、「彼はいつも次に何をするか分からないけれど、そんな自由な演技が、返って私たち2人の関係を深め、自然体にしてくれたと思う」と、シャラメに対して彼女なりに謝意を伝えている。早くも『リトル・ウィメン』は今年の賞レースを牽引する1作になるだろうと言われている。

 以上、日米で今後主演作計3作品が相次いで公開されるシャラメだが、来年2020年には、フランク・ハーバートのSF大河小説をドゥニ・ヴィルヌーヴが監督する『DUNE』、そして、ウェス・アンダーソンの最新作『THE FRENCH DISPATCH』と、今年以上の話題作が控える。20世紀のフランスの架空の町にある米国新聞社の支局を舞台に、ジャーナリストたちへのアンダーソン流のアンセムが描かれるという以外、何も情報は公開されていない『THE FRENCH~』。だが、フランセス・マクドーマンド、ビル・マーレイ、ティルダ・スウィントンといった常連組とシャラメがどう絡むのか?その場面を想像しただけでわくわくする。

待望の『君僕』の続編でエリオとオリバーはどうなるか?

 さらに、その後には待望の『君の名前で僕を呼んで』の続編が待機する。すでに監督のルカ・グァダニーノ、シャラメとアーミー・ハマー、そして、エリオの父親を演じるマイケル・スタールバーグ等、メインキャストの再集結が決定。前作と同じくアンドレ・アシマンの原作に基づくストーリーは、以下の通り。父親のサミュエルは今やクラシックのピアニストに成長した息子、エリオに会うため、フィレンツェからローマを訪れる。しかし、その車中で待っていた美女との出会いが、サミュエルの人生を決定的に変えてしまう。やがて、エリオはパリに移住。その頃、ニューイングランド北部で家族と共に暮らし、大学教授として平穏な日々を送っていたオリバーも、久々に大西洋を横断する計画を立てていた。。。このさわりだけでドキドキしてしまうが、アシマンの原作『FIND ME』が映画の公開に先駆けて今月下旬に発売されるので、興味のある方はいち早く入手してみてはいかがだろう。

ハイカット・ブーツ好きの若きファッショニスタ

 ファッショニスタとしての評価も、同世代の若手俳優の中でも群を抜いているシャラメ。『キング』のシドニー・プレミアや、今年のベネチア国際映画祭ではお気に入りのハイダー・アッカーマンの斬新なスーツで攻めまくり、同作のニューヨーク・プレミアではジバンシーのダークスーツにスモーキーイエローのハイネックを合わせて、誰よりも周囲の目を惹きつけた。どこでも、何を着ても、トレードマークのハイカット・ブーツを履くことだけは忘れてない。ただハイファッションを次々着替えるだけでなく、すでに自分のスタイルを確立しているところが、シャラメが若きファッショニスタと呼ばれる理由だ。

 ところで、そんなシャラメにロバート・パティンソンが主役を演じる『バットマン』(21)で、相棒のロビンを演じるかもしれないという噂がある。これはあくまで噂だが、本人はやる気満々。なぜなら、シャラメは子供の頃からロビンの大ファンだからだ。そんな噂も含めて、今後しばらくはティモシー・シャラメが話題の主役である時期は続くと見ていい。あくまでハリウッドに拠点を置きながら、ヨーロッパの香りを漂わせる23歳に、気鋭の映画人もファンも釘付けなのだ。

『マイ・ビューティフル・デイズ』
『マイ・ビューティフル・デイズ』

『マイ・ビューティフル・デイズ』

 11月1日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開

(C) 2016 Young Dramatists, LLC. All Rights Reserved.

Netflix映画『キング』

11月1日(金) 独占配信開始

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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