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令和に入ってもこのシリーズは続く。『BOND 25』の気になる最新情報をチェックしてみた

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
最新作の運命を握るダニエル・クレイグ(右)とフクナガ監督の2ショット(写真:ロイター/アフロ)

『アベンジャーズ』シリーズ(2012~)が感動的終焉を迎える一方で、日本の元号で言えば昭和、平成、さらに令和まで跨がろうとするロングシリーズがある。『007』シリーズ(1962~)だ。このタイミングに合わせるように、去る4月25日、最新作『BOND 25(仮題)』のローンチイベントがジャマイカで行われ、その様子がYouTube等で世界中に配信された。そこで、現時点で判明している最新作の情報をまとめてみよう。

怪我はしたくない。でも、やるっきゃないダニエル・クレイグ

 まず、会見が行われた場所が大事なヒントになっている。プロデューサーのバーバラ・ブロッコリーたちが優雅に宣伝トークを繰り広げたのは、原作者のイアン・フレミングが執筆活動を行っていたというジャマイカの別荘"ゴールデンアイ"のテラス。ブロッコリーは物語について、「映画の冒頭、ボンドがいつものように体を張ってミッションを遂行しているのではなく、ジャマイカで優雅に人生を謳歌しているところからすべては始まります」と名言。そして、そこにCIAのフェリックス・ライターが現れ、ボンドの隠居生活は無残にも終わりを告げる。フェリックスの依頼で誘拐された科学者を救出する任務は無事完了したものの、最新のテクノロジーを駆使する新たなヴィランがボンドの前に立ちはだかるのだった。と、ここまでが現状で分かりうる最新作のプロットだ。主要な撮影はすでに4月28日からスタートしていて、撮影クルーはジャマイカ、ノルウェーのオスロ、イタリアのマテラ、ロンドンと転々とし、いつものようにパインウッド・スタジオで室内ロケ等が行われる予定だ。

 これが最後のボンド役になるかもしれないダニエル・クレイグは、「もし、ボンドを演じるのに自分は歳を取りすぎたと感じたなら、即刻シリーズから去るつもりだ」と言う傍らで、「アクションシーンは一層ハードになるだろうから、最新作ではスタントダブルに頼る場面が多くなるだろう」ともコメント。一説には、前作『スペクター』(15)で怪我を負って以来、妻で女優のレイチェル・ワイズから危険なスタントは回避して欲しいと念を押されているらしく、まさに、満身創痍でロケに臨むことになりそうだ。しかし、彼は挑戦する価値がある。何しろ、クレイグはシリーズデビュー作の『カジノ・ロワイヤル』(06)から『BOND 25』まで、実に14年間ボンドアクターを務めることになり、これはロジャー・ムーアの12年間を抜いてシリーズ史上最長記録になるのだから。同時に、クレイグの51歳という年齢は『美しき獲物たち』(85)出演時のロジャー・ムーアの57歳に次ぐ史上2番目の高齢という衝撃的なデータもある。(ショーン・コネリーが53歳で出演した『ネバーセイ・ネバーアゲイン』83を番外編ととらえた場合) 若々しく、マッチョにデビューしたニュー・ボンド、クレイグも、すでにそんな歳になったのだ。特に映画の世界で月日が過ぎるのは早い。

ボンドガールとヴィランに最強の布陣がキャスティング

 そんなクレイグを囲むキャストは、Mのレイフ・ファインズ、Qのベン・ウィショー、マネーペニーのナオミ・ハリス、マドレーヌ・スワン博士のレア・セドゥ、フェリックス・ライターのジェフリー・ライト、ボンドの仕事仲間、ビル・タナーのロリー・キニア等、お馴染みのメンバーが再集結。そして、注目のボンドガールには『ブレードランナー2029』(17)で家庭用AI、ジェイを演じたアナ・デ・アルマスが大抜擢された。果たして、彼女は性差のない時代に相応しいヒロインの系譜を受け継ぐことができるだろうか?また、『ボヘミアン・ラプソディ』(18)で大ブレイク中のラミ・マレックがヴィランを演じることが決定し、世界中の"ボヘミファン"が沸き立った。ニューヨークでTVシリーズ『ミスター・ロボット』に出演中だったため、配信会見は欠席したマレックだが、会場にしっかりビデオメッセージが到着。そこでは、「ボンドの25番目のミッションはそう簡単じゃないよ」と警告し、ABCネットワークの「グッド・モーニング・アメリカ」にゲスト出演した時には、演じる役について、「極悪非道」とコメントしている。その個性的なルックスと演技力を以てすれば、もしかして、マレックは『スカイフォール』(12)のハビエム・バルデム以来の強烈な印象を残せるかもしれない。どうしてもアクションやガジェット類に注目が集まりがちな『007』シリーズだが、新鮮なキャラクターの投入こそがカンフル剤になることを熟知している、長年のプロデューサー・コンビ、ブロッコリーとマイケル・G・ウィルソンの嗅覚は未だ衰えていない。

史上初。日系アメリカ人が監督に指名された

 だが、シリーズ最新作の成否を握っているのは、当初監督として始動したものの、"クリエイティブ面での相違"を理由にプロジェクトから去ったダニー・ボイルからメガホンを受け取った日系アメリカ人で、ヨーロッパの血も引くキャリー・ジョージ・フクナガかもしれない。英国伝統のロングシリーズにアメリカ人、もしくはアジア系の監督が起用されるのはシリーズ初。これは実に画期的な出来事だ。移民たちの過酷な現実を描いた『闇の列車、光の旅』(09)や、ミア・ワシコウスカが主演した『ジェーン・エア』(10)、そして、アフリカの内戦に肉薄した『ビースト・オブ・ノー・ネーション』(15/Netflix製作)等で知られる新鋭監督は、ジャン・マルク=ヴァレ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、エドガー・ライト等、ボイル後に候補として名が上がった、彼よりも知名度と実績で勝る監督たちを押し退けて、 ビッグプロジェクトの舵取り役に指名されたのだ。

 これまで、移民問題やアフリカの現実等、リアルなテーマをドキュメントタッチで具現化することを得意にして来たフクナガ監督と、荒唐無稽にして華麗なジェームズ・ボンドの世界とは、一見ミスマッチにも思える。だが、『007』はもはやかつてのようにアクション一辺倒では済まされないのはことも事実。オスカー監督のサム・メンデス(『スカイフォール』『スペクター』12)がシリーズにドラマチックな要素を持ち込んだように、キャリー・ジョージ・フクナガのセンスが最新作を成功に導くことを期待したい。

 因みに、ボンドの愛車、アストン・マーティンDB5は今回も主人の足になりそうだ。また、主題歌を歌いたがっているデュア・リパには現時点で正式な依頼はなし。衣装に関しては、今回初めて『アリータ:バトル・エンジェル』(19)等で知られる衣装デザイナー、スティッラット・アン・ララーブが担当するらしく、もしかしてトム・フォードのスーツも含めて、キャストのワードローブに少し変化が見られるかもしれない。最後に気になるタイトル候補は、フレミングの原作で未だ映画化されていない「The Property of Lady(淑女の所有物)」、「Death Collector(死の収集家)」、「Garden of Death(死の庭)」あたりが予想されるが、さて?『BOND 25』の公開は来年、オリンピックイヤーの4月だ。

『BOND 25』

2020年4月8日世界公開

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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