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これでシリーズは終焉を迎える『アベンジャーズ エンドゲーム』を観て率直に感じること

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
ワールドプレミアのレッドカーペットに現れたR.D.Jr(写真:ロイター/アフロ)

『アベンジャーズ エンドゲーム』が今週世界一斉公開される。かつて数々の興収記録を打ち立ててきた"マーベル・シネマティック・ユニバース"の要となる『アベンジャーズ』シリーズも、本作で遂に打ち止めとなる。海外の評価をチェックしてみると、映画批評集積サイト、ロッテントマトではプロの評価が97%、ローリング・ストーン誌、ヴァラエティ、ハリウッド・レポーター等、メインの媒体も4つ星の高評価を与えている。それを受けて、業界アナリストは公開後最初の5日間で世界興収が9億ドル超に達すると予測。そこで、映画史を塗り替えたメガヒット・シリーズの劇的終焉に立ち会い、何を感じたかを、ここに率直に記したいと思う。

観客が期待する展開と配役の配置に見事応えた脚本と演出

 まずは、製作サイドの丹念な物作り精神には改めて感服する。前作『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(18)で銀河系を支配できる6つのパワーストーンをすべて奪い去った宿敵、サノスにより、多くの仲間を失ったアベンジャーズが、いかにして再決起し、どうアベンジしていくかを、強引な理屈合わせでなく、丁寧なプロットの積み重ねによって描き切った監督(アンソニー&ジョー・ルッソ)と脚本(クリストファー・マクルス&スティーヴン・マクフィーリー)。彼らが最も心血を注いだに違いない、敗北から再起するための"手段"と、マーベルファンが気を揉むであろう"キャラクターの配置と出番"が、ここまで巧みに、そして、ここまで平等に提示されるとは!?本作を観て、観客は贔屓のマーベルキャラクターと過ごした幸福な時代を共に振り返ることになるだろう。

俳優たちはいかにしてここに辿り着いたか?

アイアンマン=ロバート・ダウニー・Jr
アイアンマン=ロバート・ダウニー・Jr

 そこで、改めて痛感したのは、シリーズを牽引してきた俳優たちの存在である。思えば、スターの時代は徐々に過ぎ去り、そこに、ハリウッドメジャーのメガヒット・シリーズ志向が重なった時、タイミングよく放たれたのが『アベンジャーズ』だった。そんな時代の空気感を誰よりも如実に体現しているのがロバート・ダウニー・Jrだ。ハリウッドを代表するメソッド俳優でありながら、長らく薬物依存に苦しんでいた彼をアイアンマン役に抜擢したのは『アイアンマン』(08)の監督、ジョン・ファブローだった。ダウニーの波瀾万丈の人生がキャラクターに深みを与えるだろうという理由からだ。かくして、予想通り、彼はマーベルヒーローに独特のユーモアと溢れるペーソスを加筆。第1作出演時に取材した際の、「やっとメガヒットにありついた(心強い収入源を得たという意味)」という呟きのような言葉は衝撃的だったが、『エンドゲーム』での彼は、宇宙平和のためにすべてを捧げ尽くすスーパーヒーローではなく、人間トニー・スタークの魂をその顔に滲ませて、本来のキャラクターアクターへと回帰している。メガヒット・シリーズとキャラクターアクターの両立を成し遂げたという意味で、ダウニー・Jrは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・テップと並ぶ、否、それ以上の成功を収めたと思う。

キャプテン・アメリカ=クリス・エヴァンス
キャプテン・アメリカ=クリス・エヴァンス

 アイアンマンと双璧をなすアイコニックなキャラクターであるキャプテン・アメリカを演じるクリス・エヴァンスを、シリーズに引き込んだのもダウニー・Jrだった。彼は出演オファーを受けた時、私生活にも影響を及ぼすことを懸念して躊躇するエヴァンスに、出演することで他のオファーを選択できる自由が得られることを伝え、承諾させる。シリーズを通してキャラクターに透明感を与え続けて来たエヴァンスだが、本作でも心に染み入るドラマチックなパートを受け持ち、ダウニー・アイアンマンと並ぶ存在感を発揮している。シリーズの合間に出演した『gifted/ギフテッド』(16)での心優しい叔父の役は、作品を吟味する余裕を与たエヴァンスの優れた選択眼によるものだったと思う。また、弟のリアムとソー役を競い合ったクリス・ヘムズワースは、会った人は全員魅了されるという美顔を長髪と髭で覆い隠して登場するが、独特のコメディリリーフぶりで深刻になりがちな物語に笑いをもたらしているし、その大らかな風貌がハルク役にはぴったりのマーク・ラファロも然り。『インクレディブル・ハルク』(08)のルイス・レテリエ監督が、エドワード・ノートンの前に出演を欲していたという程、コミックのイメージに適合するラファロのルックスは、巨大化しても個性はそのまま。彼もまた、ダウニー・Jrと同じくメガヒット・シリーズとめぐり逢えた幸運なキャラクター・アクターの1人である。

メガヒット・シリーズと女優たちの関係

 女優はどうだろう。スカーレット・ヨハンソンが『アイアンマン2』(10)でブラック・ウィドウ役で演じると聞いた時、多くのファンは納得したものだ。『ダークナイト・ライジング』(12)のアン・ハサウェイを例に挙げるまでもなく、若くして演技派女優へと上り詰めた逸材の多くが、メガヒット・シリーズへの参戦を宣言していたからだ。ヨハンソンはそれを機に『アベンジャーズ』の一員として定着する一方で、『LUCY/ルーシー』(14)、『ゴースト・イン・ザ・シェル』(17)とそのキャリアをアクション女優へとシフトさせて行く。もはや、彼女に"ウッディ・アレン映画のミューズ"のイメージはない。シフトチェンジはオスカー女優にとっても必須だ。『ルーム』(15)でアカデミー主演女優賞に輝いた(当時弱冠26歳)でブリー・ラーソンが、『キャプテン・マーベル』(19)に続いて『エンドゲーム』で重要なパーツを受け持つのは、性差別を過去に葬ろうとするハリウッドの強い決意の表れ。未だ男性社会のハリウッドで脇に追いやられがちな女優を救済したという意味で、"マーベル・シネマティック・ユニバース"の功績は大きいと思う。

 さまざまな場所、立場から、壁を乗り越え、集結してきた俳優たちが、一時期、同じ場所で個性をぶつけ合い、それが世界中の映画ファンを狂喜乱舞させてきた『アベンジャーズ』シリーズ。この愛すべき離合集散がもう2度と行われないことを思うと、その感動と感謝はひとしおの最終編『アベンジャーズ エンドゲーム』である。

『アベンジャーズ エンドゲーム』

(C) Marvel Studios 2019

4月26日(金) 全国公開

公式サイト:https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame

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映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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