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設定の面白さで勝負する新ホラー&サスペンス映画は2019年『ギルティ』で幕を開ける!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
聴覚と想像力を研ぎ澄ませ!『THE GUILTY/ギルティ』

 アワードシーズンが始まり、映画界は今年1年を振り返るモードにシフトしている。そんな中、先陣を切って発表された第76回ゴールデングローブ賞で"SNUB(冷たくあしらわれる)"の1つに挙げられていたのが、『ヘレディタリー/継承』のトニ・コレットが主演女優賞候補から漏れたことだった。映画が示したオカルト映画としての新機軸もさることながら、強烈な表情演技で恐怖を体現したコレットは、来るオスカーでも有力候補になると目されているので、GG賞の選定は確かに少々冷淡だったかも知れない。

 さて、その『ヘレディタリー/継承』を筆頭に、今年は従来のホラー&サスペンス映画の常識を覆す、画期的で個性的な作品が数多く公開された。そこには、フランチャイズムービーが市場を独占する中、卓越したアイディアでこのジャンルを死守しようとする、作り手たちの凄まじいこだわりが見て取れる。まずは、そんな映画たちをコンセプト別に振り返ってみよう。

「見えない」を主観ショットで

『かごの中の瞳』
『かごの中の瞳』

 かつて、目が不自由な主人公たちが体験する恐怖を描いた映画の多くは、例えば、見えないハンデにつけ込まれ、犯罪に巻き込まれていく彼らの危機的状況を、カメラが客観的に映した作品が多かった。オードリー・ヘプバーン主演の『暗くなるまで待って』(67)や、ミア・ファロー主演の『見えない恐怖』(71)等が思い当たるが、今年公開された『かごの中の瞳』(16)は、同じ設定を見えない側からも描いた点が新鮮だった。ブレイク・ライヴリー扮する交通事故で視力を失ったヒロインが、朝、自分の体に勢いよく降りかかるシャワーの"形"を、想像力で補おうとする様子を、POVショットで映像化していたのだ。同じ手法は、彼女が角膜移植手術を受けて徐々に視覚を取り戻していく過程で、より効果的に使われていた。結果として、観客は視覚が少しずつ開けていく感覚を、当事者のそれとして味わうことが出来た。そして、見えないことで均衡を保っていた夫婦関係が、見えたことで破綻するまでを、心理サスペンスとして描き切った点も皮肉で斬新だった。

「音を出せない」緊張感が客席にも

『クワイエット・プレイス』
『クワイエット・プレイス』

『クワイエット・プレイス』の場合は視覚ではなく、聴覚がテーマだ。近未来の荒廃した地球は、音を出した途端襲いかかってくる何かによって支配されている。そんな中で何とか無音のまま危機を回避してきた一組の家族が、やがて、サバイバルのために意外な対抗手段を発見するまでの痺れるような緊張感は、観客にも咳払いは勿論、呼吸すら許さないような緊張感を強いた。かつて、これほども静寂によってスクリーンと客席が一体化したこと、そして、我々に映画の登場人物と同じく、音を出さずにどこまで日常生活が送れるかという考察を促した例は、恐らくなかったのではないか。本作が映画批評サイト"ロッテントマト"による2018年度のベストホラー映画NO.1に選出されたのも頷ける。

「姿を現さない何か」が家族を崩壊させる

『ヘレディタリー/継承』
『ヘレディタリー/継承』

 同じ"ロッテントマト"の2018年ベストホラーの第7位にランクインしたのが、前出の『ヘレディタリー/継承』だ。家族たちに色々な意味で影響を与えたと思わしき祖母の葬式をきっかけに、娘、その夫、2人の孫たちが、次々と怪奇現象の犠牲者になっていく。映画のフォーマットはこのジャンルのマスターピース『エクソシスト』(73)を受け継ぐものだ。終始、怪奇現象は対象者の身に起こるおぞましい変化として描かれる点も、『エクソシスト』と同じだが、本作の場合、家族の絶望感が半端ない。なぜ、彼らが恐ろしいほど絶望的なのかは、映画を観て確かめて欲しい。そこが、本作が"新世代の『エクソシスト』"と呼ばれる原因だ。重ねて、トニ・コレットの怪演はオスカー級に凄まじ過ぎる。

「電話の向こう」で犯罪が展開する

『THE GUILTY/ギルティ』
『THE GUILTY/ギルティ』

 そして、新ホラー&サスペンス映画の潮流に乗って来年2月に公開されるのが、『THE GUILTY/ギルティ』だ。第34回サンダンス映画祭で、やはり、犯罪の経緯をほぼPC上で展開させるアイディアが評価された犯罪サスペンス『seach/サーチ』と並び、栄えある観客賞に輝いたデンマーク映画だ。舞台は昼夜を問わず稼働する大都会の緊急通報司令室。警官を退官して緊急事態に陥った市民からの通報に電話で対応している主人公が、一本の緊急コールを受けて事態の収拾に乗り出す。しかし、すべての情報は電話越しに聞こえて来るのみ。つまり、電話の向こう側で起きている切迫した状況を、元警官も、観客も、聞こえてくる音によってのみ推測するしかないのだ。ある意味、視覚を奪われ、聴覚にすべてを委ねる設定は、ここで紹介した新ジャンル映画の中でも、一際斬新と言えるのではないだろうか。因みに、この作品、ジェイク・ギレンホール主演でハリウッド・リメイクが決定した。

2019年の注目作はこれ!

 さて、来る2019年も注目の新ホラー&サスペンス映画が様々公開待機中だ。筆頭は、長編監督デビュー作『ゲットアウト』(17)で、人種問題をホラーに落とし込み、見事、昨年度のアカデミー(R)脚本賞に輝いたジョーダン・ピールの最新作『Us』だろう。現在、中身は伏せられたまま製作が進行している同作は、"social-horrer thriller(社会的ホラー・スリラー)"とのみ表示されている。果たして、今回は何をホラーに落とし込むのか、楽しみで仕方ない。他にも、『シークレット・ウィンドウ』(04)のデヴィッド・コープ監督が、アマンダ・エイフライドを主役に創作に行き詰まった脚本家が家族を伴い訪れたアルプス山中のコテージで、想像を絶する窮地に追い込まれる『You Should Have Left』、カンザスを車で旅していた兄妹が、突然、1本の緊急コールを受けて助けに向かうが、やがて、鬱蒼とした茂みの中に迷い込む『In the Tall Glass』等、注目作がひしめいている。アイディアの枯渇とは無縁の新ジャンル映画に、来る年も大いに期待しようではないか!?

『かごの中の瞳』

公開中

(C) 2016 SC INTERNATIONAL PICTURES.LTD

『クワイエット・プレイス』

2019年2月6日(水) ブルーレイ&DVDリリース

公式ホームページ:http://paramount.nbcuni.co.jp/quietplace/

(C) 2018 Paramount Pictures.All Rights Reserved.

『ヘレディタリー/継承』

公開中

(C) 2018 Hereditary Film Productions,LLC

『THE GUILTY/ギルティ』

2019年2月22日(金) 新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開

公式ホームページ:https://guilty-movie.jp/

配給:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ

(C) 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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