マフィアの暗雲が島を覆う!「シシリアン・ゴースト・ストーリー」がもたらす戦慄!!

 イタリアのシチリア島と言えば、悪名高きマフィアの故郷。かつて、フランシス・フォード・コッポラは「ゴッドファーザー」(72)を手始めに、故郷のシチリアからアメリカに移住し、巨万の富を築き上げたビトー・コルレオーネ一族の盛衰を"サーガ"として映画史に刻んだ。それらは概ね、移住先での彼らの姿を描いた内容で、時折画面に登場するシチリアの一見のどかな風景に心が安らいだものだ。では、今のシチリアでマフィアはどのような状況にあるのか?そこに着目したのが「シシリアン・ゴースト・ストーリー」だ。

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 長編デビュー作「狼は暗闇の天使」(13)で孤独なマフィアの殺し屋と、彼が監禁した目が不自由な女性の逃避行を描いた、共にシチリアはパレルモ生まれの監督コンビ、ファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァの最新作である。物語は、ある日、シチリアの森の外れで突然失踪した13歳の少年、ジュゼッペの行方を追って、少年に恋する同級生の少女、ルナが、周囲が沈黙する中、勇気を振り絞って事件の深い闇に切り込んでいく異色クライムサスペンスだ。ここで注目すべきポイントがある。物語の発端になる失踪事件が、シチリアで実際に起きた忌まわしい出来事にインスパイアされている点だ。

 事件の概要を簡単に説明しよう。1993年、マフィアの密告者である父親、サンティノ・ディ・マッテオの口封じのため、当時まだ13歳の息子、ジュゼッペ・ディ・マッテオがマフィアの手によって拉致、監禁される。しかし、事件の捜査は遅々として進まず、拉致されてから779日目の1996年1月11日、ジュゼッペは殺害され、さらに、証拠隠滅のために遺体は無残にも硝酸によって溶かされ、湖の底へ沈められる。シチリアに今も歴然として存在するマフィアの極悪非道ぶりが分かる衝撃的な事件ではないか!?

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 密告者は一方で改心者(組織を離脱して警察に情報を提供した者)と呼ばれ、マフィアにとっては絶対に逃せない、つまり、命を取るべき裏切り者。そこで、彼らは息子のジュゼッペに警察の保護下にある父親に会わせてやると、できもしない嘘をつき、かすかな希望を持たせた上で暗く、湿った部屋の中に幽閉し続ける。ジュゼッペは父親に会えると最後まで信じ、何と25ヶ月間も監禁された挙げ句、同じ人間の仕業とは思えない残忍な方法で、短い命を絶たれることになったのだ。

 しかし、2人の監督はこれを単なるクライムサスペンスにはしていない。物語の主眼をジュゼッペに恋するルナの側に置き、彼女が生来の想像力とスピリチュアルな能力を駆使して、実際にはあり得ない方法でジュゼッペとリンクし合う様子を描いて、これを純粋で痛々しいラブストーリーへと昇華しているのだ。2人が秘密の時間を過ごす静寂の森、主人の異変を感じて動揺するジュゼッペの愛馬、生と死を分かつ緑色の湖、そして、ラストに訪れる奇跡!この映画が「シシリアン・ゴースト・ストーリー」と銘打たれた理由が分かるエンディングは、我々日本人が身を委ねる死生観とどこかでつながっていて、独特の余韻を残したまましばらく脳裏を離れない。

 ルナ一家にも大きな影響を与えていると思しき、事件の首謀者であるマフィア一味の強大な存在や、頼みの警察ですら、マフィアの手先なのか、そもそもマフィアが警察なのか、どちらとも取れる実に混沌とした治安状態も、今のシチリアの現実を映している。

シチリアでは驚くべきことに、警察の組織力よりもマフィアの結束の方が勝っていると言われているのだ。

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 ルナを演じるポーランド生まれパレルモ育ちのユリア・イェドリコヴスカが、恋する少年のために森の中を飛び跳ね、冷たい秋の湖に飛び込み、そうして、信念を貫く強いヒロインを演じて、圧巻の存在感を示す。往年のイタリア映画ファンは、そこに若き日のクラウディア・カルディナーレを連想するかも知れない。一方、ジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデスも同じパレルモ生まれ。美少年独特の自信に満ち溢れた表情でルナを見つめるジュゼッペが、監禁生活の過程でボロボロに痩せ細っていく姿は痛々しくも美しい。彼ら2人の生命力が、監督たちの意図を遙かに超えて、映画を異次元へと高めている。これはクライムサスペンスであり、スピリチュアルな物語であり、ラブロマンスであり、同時に、瑞々しい青春映画なのである。

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『シシリアン・ゴースト・ストーリー』

12月22日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次公開

公式ホームページ:http://sicilian-movie.com/

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配給:ミモザフィルムズ