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ベネチア映画祭に招待決定!「アウトレイジ 最終章」は俳優ビートたけしの真骨頂!!

清藤秀人映画ライター/コメンテーター

 北野武監督の数えて18本目になる長編映画「アウトレイジ 最終章」が、8月30日からイタリアのリド島で開催される第74回ベネチア国際映画祭のクロージング作品に決定した。数ある招待作の中でもクロージングはオープニングに匹敵する破格の扱い。そこには、同監督の「HANAーBI」が第54回で最高賞の金獅子賞、「座頭市」が第60回で監督賞に相当する銀獅子賞受賞という輝かしい実績が加味されていることは明らかだ。映画監督、北野武への評価がもはや崇拝の域にまで達しているヨーロッパでも、特にベネチアは格別の場所。今年のレットカーペットでも監督は熱狂と共に迎えられるに違いない。

「その男、凶暴につき」で見せた抜群のタイミング

 1989年、当時TVで人気お笑い芸人として多忙な日々を送っていたビートたけしが、故・深作欣二監督の下、主役を演じるはずだった映画が、深作監督が日程上の理由から降板したために、監督のバトンはビートたけしの手に渡ることとなった。そうして放たれた映画監督、北野武のデビュー作「その男、凶暴につき」は、異端刑事が麻薬組織を執拗に追いつめていく様を、最小限の台詞、繰り返される過剰な暴力シーン、そして、それらを抜群のタイミングで繋ぐ独特のリズム感が新鮮な、かつて見たこともないバイオレンス映画として完成。特に、フェイドインとフェイドアウトの合間に漂う微妙なニュアンスは、あの頃流行った"異業種監督"の域を遙かに超える才能の証でもあった。

最高傑作の呼び声が高い「ソナチネ」の"人間紙相撲"

 以来、北野武は同じ暴力をテーマに、草野球チームに所属する青年が暴力団抗争に巻き込まれていくプロセスを、野球のスコアボードに擬え描いた「3ー4X10月」(90)、一転して、聾唖のサーファーと少女のひと夏の恋を、一言の台詞も使わずに描き、映画に於ける映像の重要性を一層強調してみせた青春ラブロマンス「あの夏、いちばん静かな海。」(91)、そして、再び暴力へと回帰した北野映画の最高傑作「ソナチネ」(93)へと到達する。「ソナチネ」で披露した砂浜での"人間紙相撲"は、紙相撲の楽しさをコマ送りを使って表現して、アイディアといいその演出法といい、北野映画のオールタイム・ベストショットと言って過言ではない。台詞の力に頼らない映像で物語る映画として、筆者は未だ「ソナチネ」を超える作品に出会ったことがないのだ。

過去最高の興収をあげた「座頭市」

 その後も、青春の残酷さをボクシングを介して描いた「キッズ・リターン」(96)、バイオレンスを一切排した少年と中年男のロードムービー「菊次郎の夏」(99)、暴力とペシミズムが共存する「HANAーBI」と、次々意欲作を発表するも、作品のクオリティが必ずしも興収に結びつかなかった北野映画だったが、続く「座頭市」(03)で過去最高の興収、28億5000万円を上げ、国内外の映画賞も同時に受賞。時代劇にタップダンスを持ち込んだ斬新なアイディアは、監督の生来のセンスであるリズム感とも相まって、芸術性優先だった北野作品をエンタメへと解放した。

そして、「アウトレイジ」シリーズへ

大友(たけし・右)と子分の市川(大森南朋)
大友(たけし・右)と子分の市川(大森南朋)

 そして「アウトレイジ」シリーズは、監督が長らく培ってきた暴力描写が笑いへと昇華され、最小限に抑えられてきた台詞を歯切れ良く量産することによって新たなリズム感を生み、作劇は監督の趣味である数学の方程式の如く計算し尽くされた新・エンターテインメントとして起動。興収面でも、第1作「アウトレイジ」(10)が7億5000万円、第2作「アウトレイジ ビヨンド」(12)が約倍の14億5000万円と推移し(その間に公開された「龍三と七人の子分たち」も16億円)、シリーズ最新作もヒットが確実視されている。

西野(西田敏行)と幹部の花田(ピエール瀧)
西野(西田敏行)と幹部の花田(ピエール瀧)

「最終章」では、前作で描かれた関東の山王会と関西の花菱会の抗争後、韓国に渡ったビートたけし扮する主人公、大友が、再燃した暴力団抗争に激怒し、すべてに決着を付けるために再び日本の土を踏む。花菱会の若頭を演じる西田敏行は今回も悪ぶりと歯切れのいい台詞回しが際立つし、韓国、張グループ会長を演じる金田時男は、その蝋人形のような風貌で客席を凍り付かせる。一方、サラリーマンから花菱会の会長となった野村役の大杉漣が発揮するチャラさは爆笑ものだ。

会長(大杉漣)を中心に花菱会の面々
会長(大杉漣)を中心に花菱会の面々

 しかし、俳優陣の中で一際異彩を放つのは、大友を演じるビートたけしではないだろうか。出番は少ないが、お決まりの「バカ野郎」を連発する傍らで、溜め込んだ怒りを一気に爆発させる時の暴発力は、俳優としての真骨頂。最近、TVではコメントが聞き取りづらいこともあるたけしだが、映画では、意図的にスローな喋りが異様な迫力を伴い観客に襲いかかる。特に、怒りで歪む眉間と、悲しみを含んだその表情は、見終わって暫くたっても脳裏に刻まれたまま消え去らない。

 ベネチアでは、監督としては勿論、俳優ビートたけしに改めて注目が集まるのではないか?そんな気がする「アウトレイジ 最終章」である。

画像

アウトレイジ 最終章

10月7日(土)より全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

(C) 2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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