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秘かに始動する「007」シリーズ。そのキーパーソンはクリストファー・ノーランか?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
シリーズ参加が確実視されるクリストファー・ノーラン(写真:REX FEATURES/アフロ)

007シリーズにかすかな動きが見えてきた。シリーズ最高の世界興収を記録した「スカイフォール」(12)と、4位にランクインした「スペクター」(15)に主演したダニエル・クレイグが、未確認ながら次回作「BOND 25」への出演を承諾したことをメディアがリークしたのだ。クレイグは一時期、ボンド卒業を公言していただけに、この情報は注目に値する。とは言え、007シリーズに於いてはピアース・ブロスナンのように続投宣言直後に撤退となるケースもあるので、予断は許さない状況だ。クレイグの続投と込みで報道された主題歌、アデルの参加も、流動的と思った方がいいだろう。

クレイグの続投とノーランの参加はリンクしている

注目すべきは、「スペクター」を最後に同シリーズからの降板を発表したサム・メンデスに代わって、いったい誰がメガホンを執るか、だ。ここに来て一躍注目を浴びているのは、自作「ダンケルク」の日本公開(9月9日)を控えるクリストファー・ノーランだ。同作のプロモーションでプレイボーイ誌のインタビューに応じたノーランは、記者の「ジェームズ・ボンドという巨大フランチャイズを自分なりに作り替えてみたいか?」という質問に対して、以下のように応えている。「実は、同シリーズのプロデューサー、バーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソン両氏とは、ここ数年話し合いを持っている。僕はボンドというキャラクターが大好きだし、常に次回作を待ちわびるシリーズのファンでもあるんだ。僕がそれを受け継ぐ可能性?あるだろうね。なぜなら、いつの日か必ず"007"には改革が必要になるだろうから。新たな人材が求められる時がね」と。

その言葉通り、いつの日か、かつて「バットマン」シリーズを「ダークナイト」シリーズ3部作でシリアス路線へとリブートしてみせたノーランが、ジェームズ・ボンドを何らかの方法でリブートする日が来るだろうか?筆者が想像するに、本来イギリスの国家公務員であるボンドが、国家転覆、世界制覇を目論むヴィラン相手に黙々と業務を遂行する過程で、任務と感情のせめぎ合いに苦悩する姿を描くのなら、ノーランほどこれに適した人材はいないだろう。毎作話題になるガジェットの類いは勿論、ネタ枯れが指摘されるアクション・シーケンスに革命的な映像技術を投入することで、ボンドに馴染みのない若い映画ファンを獲得することも可能だと思う。

ノーラン起用の利点と疑問点

反面、ノーランの徹底したシリアス志向は、ショーン・コネリーから間を飛ばしてダニエル・クレイグへと受け継がれたセクシー路線とは、全く相容れない世界観だ。ボンドが脱がず、女性と絡まないのは想像できない。しかし、ノーランなら、物語の進行上、ボンドと簡単に恋に落ちてしまうボンドガールにより切実なモチベーションと、核になる立ち位置を与えられるかも知れない。いずれにせよ、「BOND 25」は無理でも、続く「26」でシリーズデビューが確実視されるノーランにとっても、また、ブロッコリを始めとする製作サイドにとっても、特に来たる2〜3作は、今後のシリーズの行方を決定づける新たな分岐点になることは間違いない。

さて、ボンド役者に話題を戻すと、業界の注目は一部で報道されている通り、ダニエル・クレイグがシリーズ第25作と26作に出演するかどうかに集まっている。一説には、クレイグは製作元のイーオン・プロダクションから「BOND 25」と「26」への出演料として2本まとめて1億2000万ポンド(約160億円)を提示されているとか。映画業界のシビアな経済状況を反映してか,スターのギャラが話題にならなくなって久しいが、この提示額は破格だ。イメージの定着と体力面を理由に続投を躊躇して来たクレイグを、再びその気にさせるには充分過ぎる額だろう。

クレイグからトム・ハーディへのシフトはあり得るか?

しかし、クリストファー・ノーランが監督する場合、彼の流儀を考えると、馴染みの俳優をキャスティングすることはあり得る。そこで急浮上しているのがトム・ハーディだ。これまでイギリスのメディア主導で幾度となく報道されてきた"次期ボンド候補"の中で、トム・ヒドルストン、イドリス・エルバ、ルーク・エバンス、チャーリー・ハナム、ジェイミー・ベル(イーオン・プロのイチオシ)、ジェームズ・ノートン等と並んで、ハーディも最有力の1人に挙げられてきた。本人もメディアの取材に対して、「もし、ノーランが監督すれば素晴らしいに違いない。でも、今ここでボンドについて話すつもりはないよ。だって、それを話したらこのレースを離脱するというジンクスがあるから」とコメント。要はやる気満々なのだ。

果たして、クリストファー・ノーラン監督、トム・ハーディ主演の007シリーズ最新作が公開される日は訪れるだろうか?最近の流れを見ると、その可能性は大いにありそうだ。個人的な願いだが、その暁には、是非、視覚的且つドラマ的に優れた、同時に、トムハが脱ぎまくるR指定ギリギリのボンド映画に仕上げて欲しい!

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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