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エンゼルスの大型補強を徹底検証。実はトレード価値が30.1対7.9の一方的なトレード

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
エンゼルスが獲得したルーカス・ジオリト(撮影:三尾圭)

 大谷翔平をトレードで放出しないと決断したロサンゼルス・エンゼルスが、その直後に大型補強に動いて、悲願のプレーオフ出場に向けて戦力アップに成功した。

 エンゼルスが獲得したのは、オールスター投手のルーカス・ジオリトとリリーフ投手のレイナルド・ロペスの2投手。どちらもシカゴ・ホワイトソックスから移籍してきたが、弱点だった先発ローテーションとブルペンを補強する的確なトレードと評価できる。

 大谷と同じ年の29歳のジオリトは、2019年から21年まで3年連続してサイ・ヤング賞投票で票を得ている右腕。2018年から昨季まで、短縮シーズンだった2020年を除いて、4シーズン全てで二桁勝利を上げている。

 今季はまだ6勝と勝ち星は伸びていないが、アメリカン・リーグで9位タイの11クオリティ・スタートを記録しており、2.7WARはアメリカン・リーグの投手の中で7位にランクする。

 リリーバーのロペスは、昨季は61試合に登板して防御率2.76と非常に安定した投球を披露。今季の防御率は4.29と奮わないが、7月は7試合に登板して無失点と調子が上向いてきている。制球力に難があるが、100マイルの速球で三振を奪う本格派だ。

 ジオリトとロペスの二人は共に2016年にメジャー・デビューを果たしたが、メジャーに定着したのは大谷と同じ2018年。今季終了後にフリーエージェント(FA)の権利を手にするので、エンゼルスが保有権を持てるのはレギュラーシーズンの残り2ヶ月とプレーオフ期間中と非常に短い。

 リーグでもトップクラスの実力と実績を誇るジオリトとロペスをエンゼルスが獲得できたのは、この二人が今季終了後にFAとなる選手だからであり、メジャーではこのような選手を『レンタル選手(Rental Players)』と呼ぶ。

 エンゼルスの弱点を穴埋めするジオリトとロペスの獲得に成功したが、エンゼルスの払った代償はとても大きい。

 交換相手としてエンゼルスが差し出したのは、20歳のエドガー・クエロ捕手と23歳のカイ・ブッシュ投手の二人のマイナーリーガー。

 一見すると、メジャー経験のないマイナーリーガーとの交換で、オールスター選出経験を持つメジャーリーガーを獲得できたエンゼルスが大儲けしたトレードに見えるかもしれないが、本当の評価は全く逆である。

 20歳のクエロはマイナー屈指の捕手であり、エンゼルスのプロスペクト・ランキング(有望株ランキング)では2位、球界全体でも65位と高評価を得ている金の卵。

 エンゼルスの捕手状況を見ると、来季以降はローガン・オホッピーが正捕手を務め、今後6年間は捕手は安泰。オホッピーとクエロという将来の正捕手候補二人を抱えていたので、クエロをトレードで放出するのは理にかなっている。

 大型左腕のブッシュは、エンゼルスが2021年のドラフトで2巡目指名した逸材。大学野球で鍛え上げられており、エンゼルスのプロスペクト・ランキングでは投手最高位となる3位に入っていた。

 ホワイトソックスは正捕手のヤズマニ・グランダルとの契約が今季で切れ、マイナー組織にも高評価を得ている捕手がいないので、クエロは喉から手が出るほどに欲しい存在。

 本来であればクエロ一人でジオリトとロペスを獲得できたのに、ホワイトソックスに足元を見られたエンゼルスは、ブッシュまで強奪されてしまった。

 エンゼルスのマイナー組織は選手層が薄く、潜在能力の高い選手が少なかったが、そこに球団2位と3位の有望株を失ったために、トレード後にはマイナー組織ランキングでメジャー30球団中最下位まで転落した。

 選手のトレード価値を測定している『ベースボール・トレード・バリューズ』というサイトがあるが、そのサイトによると、ジオリトのトレード価値は6.6で、ロペスは1.3。エンゼルスが差し出したクエロは20.3とジオリトの3倍以上の評価を得ており、ブッシュも9.8とジオリトよりも高い。

 ジオリトとロペスの合計値が7.9なのに対して、クエロとブッシュは合わせて30.1。あまりにも一方的なトレードである。

 トレード価値は選手の能力、年俸、保有期間のバランスで算出される。エンゼルスで最もトレード価値が高い選手は、メジャー・ナンバー1選手の大谷(トレード価値45.1)ではなく、63.1のリード・デトマーズ。これは、仮にトレードで大谷を獲得して、大谷が今季の残り試合で貢献する価値よりも、現在はメジャー最低年俸のデトマーズが次の4年間で生み出す貢献度の方が高いと算出されているからである。

 ちなみに2026年まで契約が残っているアンソニー・レンドンは、保有期間こそ長いものの高額契約と故障のリスクを懸念されて、トレード価値はマイナス100.9と、明らかな不良債権と化している。

 大谷が強く望むプレーオフ進出に向けて、未来の宝を差し出したエンゼルス。3枠あるワイルドカード最後のポジションに現時点で座っているトロント・ブルージェイズとのゲーム差は3.0。

 エンゼルスはそのブルージェイズと今日から敵地で3連戦を戦う。大切な1試合目のマウンドに立つのは、トレードで獲得したばかりのジオリト。

 この3連戦で、今回のトレードで大きな博打に出たエンゼルスの命運が見えてくるかもしれない。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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