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「2024年にはベルトを巻きたい」との青写真を描く日本人初のUFC王者に最も近いファイター、平良達郎

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
UFCで3連勝を飾った平良達郎(撮影:三尾圭)

 Text and Photos by KIYOSHI MIO

 宇野薫、五味隆典、岡見勇信、秋山成勲、堀口恭司、……。

 これまでに数々のトップ日本人格闘家が、世界最高峰と呼ばれるUFCのオクタゴンの中で戦ってきたが、いまだにUFCのベルトを巻いた日本人選手はいない。

 UFCのベルトに初めて挑戦した日本人選手は山本喧一と近藤有己。2000年に東京で開催されたUFC30で、山本はライト級王者のパット・ミレティッチに、近藤はミドル級王者のティト・オティーズに挑戦したが、いずれも首を極められて敗れた。

 アメリカ開催のUFC大会で、日本人初のタイトルに挑戦したのは宇野薫。2001年に新設されたバンタム級初代王者決定戦で、ジェンス・パルヴァーと対戦したが、惜しくも判定負け。これがUFCデビュー戦だった宇野は、2003年にもライト級王者決定トーナメントで決勝まで勝ち上がり、BJ・ペンと戦い、引き分け。またしてもベルトを手にするチャンスを逃してしまった。

 宇野と同じく、UFCデビュー戦でタイトル挑戦に抜擢されたのが桜井マッハ速人。2002年にウェルター級王者のマット・ヒューズに挑んだが、4RにTKO負け。桜井がUFCのオクタゴンで戦ったのは、この1試合だけだった。

日本人選手として、唯一UFCのベルトに2度挑戦を果たした宇野薫(写真:三尾圭)
日本人選手として、唯一UFCのベルトに2度挑戦を果たした宇野薫(写真:三尾圭)

 日本人ファイター最多となるUFC21戦、14勝を誇る岡見は、日本の団体ではなく、UFCを主体として戦った本格派。2011年には当時8連続防衛と絶対王者として君臨していたミドル級チャンピオンのアンデウソン・シウバに敵地ブラジルで挑戦したがTKO負け。

 現役日本人選手最強と言われる堀口もUFCで戦い、7勝1敗と圧巻の成績を残したが、唯一の黒星はタイトルマッチでのもの。歴代最強のパウンド・フォー・パウンド王者の一人と評されるデメトリアス・ジョンソンにタップアウト負けを喫した。

日本人選手ながらアメリカ開催のUFC大会でメインイベントに抜擢されたこともある五味隆典(左)と岡見勇信(右)(写真:三尾圭)
日本人選手ながらアメリカ開催のUFC大会でメインイベントに抜擢されたこともある五味隆典(左)と岡見勇信(右)(写真:三尾圭)

 日本人UFC王者は日本格闘界の悲願でもあるが、堀口がUFCのライバル団体であるベラトールで戦う今、その座に最も近いと言われているのが23歳の平良達郎だ。

 初代タイガーマスクこと佐山サトルが創設した修斗のアマチュア大会で10勝無敗の成績を残して、プロに転校した平良。プロ9戦目で修斗世界王者となり、22歳の誕生日を迎えた翌週にUFCとの契約を結んだ。

 アマチュアでもプロでも負けたことのない平良は、昨年5月のUFCデビュー戦こそ判定勝ちだったが、10月に行われた2戦目は2ラウンドに腕ひしぎ十字固めでタップアウト勝ち。

 そして、現地2月4日(日本時間5日)にネバダ州ラスベガスのUFC APEXにて行われた大会でも、1ラウンド4分20秒、腕ひしぎ三角固めでヘスス・アギラーに勝利した。

 これでプロ転向後、13戦無敗、UFCでも3連勝としたが、UFCのランキングにはフライ級トップ15の中に平良の名前はまだ入っていない。

 「またすぐ(アメリカに)戻ってきて戦いたい。ランキング戦にも興味があるので、強い相手とやって行きたい」と格上の選手との試合を直訴。

 「ランカー(上位15位の選手)とやって勝てば、トップ15には入れる。ただ、ランキングに入りたいのではなく、ベルトを取りたい」と頂点に立つという目標はぶれていない。

 「対戦相手は誰になるかは分からないですけど、今年はあと3連勝して、次の挑戦者は平良だと(チャンピオンに)言ってもらえるようにアピールしたい」とのプランを打ち明ける。

 「(誰か特定の選手と)戦ってみたいと言うよりも、自分を試したい。実力があるランキングの選手と僕で、どんな展開になるのかを僕が見てみたい」

 UFCでの3試合は、初戦こそ判定勝ちだったが、その後は2試合連続一本勝ちで、「パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト(大会優秀選手)」にも選ばれ、5万ドル(約650万円)のボーナスも獲得した。ただ勝つだけでなく、相手を圧倒して勝つ平良の評価は急上昇中で、UFC関係者の中からも、将来のチャンピオン候補に推す声が出始めている。

 まずは11~15位の選手を倒して、その次にトップ10、トップ5に勝てば、平良が思い描くように、ベルトへの挑戦権が回ってくるだろう。

 「ベルトに挑戦するのは来年の予定です。来年は辰年で、僕の干支で縁起も良いので、2024年にベルトを取りたい」

 ここ数年のUFCフライ級は、王者のブランドン・モレノと、前王者でランキング1位のデイブソン・フィゲイレードの2選手を中心に回ってきた。

 2020年11月に行われた初対決は王者フィゲイレードにモレノが挑戦。両者が死力を出し尽くした戦いは5ラウンド、ドローに終わり、UFCのデイナ・ホワイト代表が「フライ級史上最高の試合」と絶賛した名勝負だった。

 21年6月に両者が再戦すると、今度はモレノが王者奪取に成功。22年1月のリターンマッチでは、フィゲイレードが判定勝ちでベルトを取り戻した。

 そして、UFCでは史上初となる4度目のタイトルマッチが1月21日に行われ、モレノがベルトを奪回。敗れたフィゲイレードは階級を上げてバンタム級への転向を示唆している。

 フィゲイレードがフライ級を去った場合、フライ級では頭1つ抜け出た存在のモレノがしばらくは防衛を続けそうだ。

 そうなってくると、平良が来年ベルトに挑戦する相手はモレノになる。

 平良とモレノはマネージメント会社が同じで、UFCのトレーニング施設で何度か顔を合わせたこともある。「見た目通りの優しい方」とモレノの素顔を語るが、ファイター・モレノに関しては、こう口にする。

 「モレノ選手は打撃もスピードがあって、ジャブも速いし、サブミッションもあるオールランダーなので強いと思います。でも、勝てない相手ではないのかなとも思っています。自分を強化して、彼が防衛を続けていくのであれば、ブランドン・モレノ選手に挑みたい」

デイブソン・フィゲイレード(右)と4度もタイトルマッチを戦った現UFCフライ級王者のブランドン・モレノ(左)(写真:三尾圭)
デイブソン・フィゲイレード(右)と4度もタイトルマッチを戦った現UFCフライ級王者のブランドン・モレノ(左)(写真:三尾圭)

 元UFCミドル級王者で、現在は試合解説を務めるマイケル・ビスピンが「技術的に完璧な選手」とべた褒めし、現役日本人最強選手でUFC軽量級の強さを肌で知る堀口も「次世代のスター選手」と平良の実力を高く評価する。

 試合を重ねる度に成長を続ける平良は、まだまだ強くなる余地を残しており、王者挑戦までの3試合でどこまで強くなれるかが楽しみな存在。

 心から総合格闘技を愛しており、時間があると総合格闘技の研究に余念がない。

試合の映像を観ることも好きなようで、現役選手の試合だけでなく、過去の日本人UFCファイターたちの試合も熱心に観ていると言う。

 「ずっと動画を通して観てきた、格好いい日本のレジェンド。その彼らを超えていくような選手になりたいし、UFCのベルトを取りたい」

 平良が日本人初のUFC王者となったとき、日本の総合格闘技は新しいステージに突入する。

 世界最高峰のUFCで相手を倒し続ける平良の戦いに注目だ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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