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元祖二刀流の貫禄を示したエンゼルス大谷が、二連発弾で二刀流選手を粉砕。明暗が分かれる春季キャンプ

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平(撮影:三尾圭)

 2018年に大谷翔平がメジャーリーグにデビューしてから、封印されていた『二刀流選手』の門が約100年ぶりに開かれた。

 アメリカの大学野球界には投打に優れた才能を持つ数多くの二刀流選手がいるが、それらの選手たちもプロに入ると、投手か打者のどちらかに専念。メジャーでの選手登録は『投手』か『打者』の2択だったが、大谷の成功により昨季からは『二刀流選手』という新しいカテゴリーが誕生している。

 二刀流選手の『先駆者』である大谷だが、度重なるケガに見舞われて、二刀流選手としてフルシーズンを活躍したことはまだない。メジャー1年目の2018年は投手としての登板は10試合に限定され、19年は登板ゼロ、20年も2試合しか投げられなかった。

 大谷が投手としても、打者としてもメジャーでトップクラスの実力を持っていることは疑いの余地はないが、メジャーで二刀流選手として活躍を続けることの難しさは大谷自身が身をもって証明している。

 投打の両面でメジャーで通用する能力を秘める選手は少なくはないが、二刀流に挑戦する選手はほとんどいない。

 現役メジャーリーガーとして大谷に次ぐ実績を残しているのがシンシナティ・レッズのマイケル・ロレンゼンだ。

 大谷が所属するロサンゼルス・エンゼルスの本拠地があるアナハイムで生まれ育ったロレンゼンは、地元にある大学野球の強豪校、カリフォルニア州立大学フラトン校で強打の外野手として活躍。チームの守護神も兼任して、勝ち試合の終盤では外野からマウンドに移って、試合を締めくくっていた。

 大学球界では打者としての能力を高く評価されていたロレンゼンだが、2013年のドラフトで全体38位で指名したレッズは、打者ではなく投手としての才能を買い、2018年までは投手に専念させた。

 しかし、2018年に大谷が二刀流選手として活躍する姿を見ると、ロレンゼンにも二刀流として挑戦したいとの意欲が湧き、19年にはリリーフ投手として73試合に登板する一方で、外野手としても29試合(6先発)に出場。投手としては防御率2.92、21ホールド、7セーブを記録。シーズン終盤の試合では、リリーフ登板した後に、打者として本塁打を放ち、最後は外野も守り、ベーブ・ルース以来98年ぶり、メジャー歴代2人目となる同一試合での『勝利投手』、『本塁打』、『野手として守る』を達成した。

 コロナ禍の2020年は外野手としては3試合、計4イニングしかプレー機会がなく、全試合で指名打者制が使われる特別ルールだったので、1度しか打席に立てなかった。

 メジャーでの6シーズンで268登板しているロレンゼンだが、先発したのは26試合で、これまでは中継ぎ投手として起用されてきた。

 だが、今季は先発転向を目指して、春季キャンプに臨んでいる。

今季から先発転向を目指すレッズのマイケル・ロレンゼン(写真:三尾圭)
今季から先発転向を目指すレッズのマイケル・ロレンゼン(写真:三尾圭)

 その大谷とロレンゼンが、3月15日(日本時間16日)に行われたオープン戦で直接対決した。

 今回の対決は『投手・ロレンゼン』対『打者・大谷』。

 大谷は第1打席に左翼への本塁打を放つと、続く第2打席にも左中間スタンドへ叩き込み、2打席連続ホームランで完勝。『元祖二刀流選手』の貫禄を示してみせた。

 風に乗った1発目の本塁打は「アリゾナならではのホームラン」と負けを認めなかったロレンゼンだが、完璧に捉えられた2本目は「1本目の倍は飛んでいった。彼は本物。二刀流を続けていくべきだ」と完敗宣言をした。

 「1打席目は軽く当てたような感じ」と左翼へのホームランを振り返った大谷は、「2本、違うホームランだった。1本目は2ストライクと追い込まれて変化球を頭に入れながらまっすぐが来たので、払うような感じで打った。2本目は直球を待ってましたけど、カウントのカーブをある程度、頭に入れながら振り抜けたので、違うホームランで良かった」と2本の本塁打に手応えを感じた。

 この時期は結果よりも過程を大切にする大谷は、「風でホームランというのはオープン戦では必要ない」と言いながらも、「そこ(左翼)にしっかり入るなら、(右へ)引っ張っても入るので、それはいいんじゃないかなと思います」とコメント。

 2打席目は「(ロレンゼンは)100マイル(約161キロ)近く出るし、頭には真っすぐがあった」と速球を待ちながらも、瞬時にカーブに反応しての左中間への大きな一発は絶好調の証と言える。

 メジャー4年目を迎える今季は、二刀流選手としての真価を問われる大谷。今春のキャンプは投打ともに好調で、メジャー初となるフルシーズンを通しての二刀流選手としての活躍に期待が高まる。

 「投げている方が、自然と打席で集中している」と二刀流としてプレーすることで、相乗効果が出ると本人も口にしている。

 一方のロレンゼンは、今春は3試合に登板して、0勝2敗、防御率9.39、7.2イニングを投げて4本塁打を献上と苦しんでいる。

 今春はまだ野手としてプレーしてなく、打席にも1度も立てていない。「もうすぐ打席に立てることを願っている」と口にしたが、マウンドで結果を出せなければ、ローテーションに残れないかもしれない。

 過去5シーズンは主に中継ぎとして投げてきたロレンゼンだが、「先発として投げた方が、全ての才能を生かしやすい」と先発転向に意欲をみせる。

 「先発した翌日は身体とメンタルを休ませたいが、先発前日に野手としてプレーするのは問題ない」とアピール。登板予定が決まっている先発投手として登板することで、打者としての起用方法もスムーズに行くと主張する。

 「(大谷に二刀流選手として)大成功して欲しい。彼のプレーは見ていても楽しいし、大好きな選手だ」と大谷にエールを送ったロレンゼン。大谷が日本でプレーしているときから注目していて、大谷の才能を「本物」と言い続けて評価してきた。

 「大谷が僕の二刀流選手としての道を切り開いてくれた」と言うロレンゼン。今春はまだ結果を出せていないが、「メジャーでの6年間で僕の実力を証明してきた。今春の結果だけで判断するのはとても馬鹿げているし、首脳陣はそんな愚かではない。監督もコーチも僕の力を信じているはずなので、何も心配していない」と強気な言葉を口にする。

 尊敬する二刀流の先輩に続くためにも、そろそろ結果を出さなければならない。

ここまで春季キャンプで結果が出ていないレッズのマイケル・ロレンゼン(写真:三尾圭)
ここまで春季キャンプで結果が出ていないレッズのマイケル・ロレンゼン(写真:三尾圭)

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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