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WBCは米国内でも盛り上がっているのか。逆転満塁弾のターナーに話を聞いた2月18日の取材メモより。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ワールド・ベースボール・クラッシック(以下WBC)は18日に準々決勝が行われ、2連覇を目指す米国が9―7でベネズエラに逆転勝ちした。立役者はフィリーズのターナーだ。2点を追う八回に起死回生の満塁本塁打を左翼席に運んだ。

私は劇的な満塁本塁打の一か月前、2月18日にフィリーズのキャンプ地でターナーを取材していた。そこで、その日の振り返りレポートをし、この一か月間の米国メディアのWBCの捉え方、盛り上がり方の変化にも触れてみようと思う。

キャンプインして間もない2月18日。ターナーは練習が始まる前、朝の8時30分過ぎに、ロッカーの前で囲み取材に応じた。ドジャースからフリーエージェントとなったターナーは、2022年12月にフィリーズと11年総額3億ドル(約395億5000万円)という長期大型契約を結んでの入団。これからチームの看板選手のひとりとなる彼に、地元メディアはいくつかの質問を投げかけた。質疑応答は明るく、和やかな雰囲気で、彼に対する地元の期待の高まりを感じるものだった。

フィリーズの一員としてクラブハウスで過ごしてみた感想は?

「ウィーラーやノラは打てなかったから、彼らとチームメートになれてよかった」

ピッチクロック、けん制、やや大きくなったベースなどの新ルールについてどう思うか。(ターナーは2018年と21年にナ・リーグ盗塁王になっている)

「周囲はより多くの盗塁を期待するかもしれないが、自分はいかに多く得点するかを考えている。(ベースが大きくなっても)1インチの差でアウトになったり、セーフになったりすることはこれまで通りあるだろう。ただ、新しいルールの影響はもちろんあると思う。最初のうちは勉強の時間が必要だ」

このような囲み取材を10分ほどしたあと、その後、数人の地元メディアとの雑談にも応じた。

その最後に私はWBCについて質問してもよいか、と聞いた。ここまでのところ、WBCに関する質問はひとつも出なかったからだ。日本では代表選手がキャンプをしており、すでに盛り上がっていると伝え聞いていたから、質問しようと思った。すでに15分近くしゃべっていたにもかかわらず、ターナーは笑顔で応じてくれた。

WBCに参加を決めた理由は? 

「前(2017年)のWBCが多くの人にとって、とてもわくわくするものだったので、その興奮をわかちあいたいと思った。自分が国を代表するのにこれ以上のものはない。世界中が興奮していて、選手たちは気持ちが入っているので、ファンもそうあってくれればと願っている」

開幕への準備とWBCの両立は?

「最初の1-2週間は体の準備をして、そこからWBCの準備をしていく。WBCはシーズンの準備にも役立つと思うので心配していない。大舞台の重要な打席や守備にしっかり備えたい。これほどテレビ中継される試合なのに、準備ができていなくて、そういったことができないのは嫌だから」

アメリカ代表としての重圧はあるか

「この大会はどのチームにも勝つチャンスがある。野球のおもしろさは、ベストのチームが勝つとは限らないところだ。自分たちは勝ちたいし、最後まで勝ち残るチームになりたいから大きなプレッシャーはある。でも、最後まで勝ち残りたいのは、どのチームも同じだ」

ターナーは、一か月前に話した通り、大舞台の重要な打席で、逆転満塁本塁打を放った。

2月18日時点では、フィリーズの地元メディアは、チームが新たなスターとして迎えたターナーという視点から取材しており、WBCの米国代表とは見ていなかった。また、ターナーも選手と同じように、ファンも熱くなってほしい主旨のコメントをしており、すでに盛り上がっているものではなく、これから盛り上がっていく状況だと把握していたのだと思う。

2月下旬、私はWBCについて研究している米ロックヘブン大のティーポール助教に取材する機会も得た。ティ―ポール助教は「コロナのパンデミックによる6年間の空白、2017年のWBCで米国が初めて優勝した後でも、ほとんどの米国のスポーツファンにとってWBCはさらに後回しにされている。米国がWBCのタイトルを防衛することについての積み重ねやメディアの物語はあまりない」と指摘した。

確かにティーポール助教が指摘するように、北米の動きを見る限りは、大会前に興味や期待をかりたてるような情報の発信は少なかったと私も感じた。ターナーだけでなく、ブルージェイズの囲み取材でも、カナダメディアからWBCについての質問はほとんど出ていなかった。

しかし、大会が始まってからは、WBCについての報道も増えているし、キャンプ地の日々の囲み取材でも話題になる。1試合ごとにストーリーが生まれ、積み重なっていっているようだ。当たりまえといえばそれまでだが、フィラデルフィアのメディアも、3月18日は、フィリーズの話題ではなく、WBCのターナーの逆転満塁本塁打を大きく扱っていた。

WBCがはじまると、そのおもしろさにファンはひかれる。それが、アメリカ国内では瞬間的なものなのか、それとも、少しは持続するものなのかはわからないけれども。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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