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NBAから「オーナー」が消滅し始めている。なぜなのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NBA(米プロバスケットボール協会)は16日、中国の電子商取引大手「アリババ」の共同創業者である、ジョセフ・ツァイ氏がNBAのブルックリン・ネッツの所有権51%をロシアの富豪ミハイル・プロホロフ氏から買収すると発表した。

  ロイター通信の日本語版の見出しは「NBA=ツァイ氏がネッツ単独オーナーに、買収額は約2500億円」。ツァイ氏が所有権51%を買収したことに関連して記事を書いたニューヨーク・ポスト紙電子版は「New owner Joseph Tsai wagers China, Durant will ‘Net’ him a win」という見出しをつけている。

 

 見出しを読めば、ツァイ氏がネッツの所有権を得て、新しいオーナーになったことが分かる。

 しかし、NBAから「オーナー」という言葉が消える日が近づいているようだ。

 米国のケーブルテレビ局HBOは、レイカーズのレブロン・ジェームズが出演する「ザ・ショップ」という番組を放送している。昨秋、ウォリアーズのドレイモンド・グリーンがこの番組に出演したときに「オーナーと言うべきではない」と発言したのだ。カジュアルな構成の番組で、グリーンは怒りをあらわにしていたという感じではなく、会話の流れのなかで話している。その発言に続いて、グリーンは「オーナー」ではなく、「チェアマン」が良いと提案した。

 なぜか。

 NBAの選手は80%近くがアフリカ系米国人であるが、アフリカ系米国人のオーナーは、ホーネッツのオーナー、マイケル・ジョーダンくらいしかいない。選手の8割近くは黒人であるのに、ほとんどのチームのオーナーは白人という状況が関係している。(1)

 コートでプレーしている多くの選手は黒人。そのチームの大株主は白人。チームの所有権を持つ人は、選手の労働が生み出す試合という商品を販売することでビジネスを成立させている。彼らを「オーナー」と呼ぶことは選手を所有しているかのようなイメージにつながりかねない。そのような懸念がアフリカ系米国人の選手にはある。それは米国の消すことのできない歴史、奴隷制度を思い出させることになるのではないか、と。

 NBAのいくつかのチームでは、すでに「オーナー」という言葉を使っていない。米国のニュースサイトTMZによると、クリッパーズはかつては、スティーブ・バルマーをオーナーとしていたが、2018年からチェアマンという肩書に変更。また、セブンティシクサーズも昨年から「オーナー」を「マネージング・パートナー」という呼称に変えている。

 ちなみにグリーンが契約延長したウォリアーズは、ジョー・ラコブをオーナー&CEOと表記。 ホーネッツはマイケル・ジョーダンをチェアマンとしている。

 NBAのコミッショナー、アダム・シルバーは、NBAでは「オーナー」という言葉を数年前から使っていないと主張。NBAの内部では「オーナー」ではなく、組織の長などを意味する「ガバナー・オブ・ザ・チーム」という言葉を使っているという。

 現在の流れからすると、数年のうちにNBAの各チームから「オーナー」という名称はなくなるかもしれない。そうすれば、マスメディアからもNBAのオーナーという表現もなくなる。名称を変えるのは難しいことではないだろうが、チームの所有権を持つ人には白人が多く、黒人は極めて少ないという現実は、すぐには変わりそうにない。

 今年は米国で初めてアフリカ系米国人が奴隷となったとされる年からちょうど400年目。第16代大統領のエイブラハム・リンカーン

の奴隷解放宣言からは156年が経っている…。

(1)http://nebula.wsimg.com/b10c21a67a6d1035091c4e5784c012f4?AccessKeyId=DAC3A56D8FB782449D2A&disposition=0&alloworigin=1

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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