大谷翔平の名前をアナウンスした米国ウグイス嬢は、なぜ、スムーズに発音できたのか。

ロバーソンさんが「ショーヘイ・オータニ」をアナウンスした試合(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 日本の野球場には「ウグイス嬢」と呼ばれる場内アナウンサーがいる。その言葉の表す通り、女性の場内アナウンサーたちを指す。

 高校野球の地方大会からNPBの試合まで、日本の野球界では場内アナウンサーは女性が主流だ。

 海を渡った米国の野球界では、場内アナウンスの担当は男性であることが多い。メジャーリーグ初のフルタイムの女性場内アナウンサーが誕生したのは1993年のこと。サンフランシスコ・ジャイアンツが採用したシェリー・デービスさんが女性の第一号である。ジャイアンツによると、現在、メジャーリーグには女性の場内アナウンサーが2人いるそうだ。ジャイアンツのレネ・ブルックス・ムーンさんと、メッツのメアリソロ・カストロさんだ。

 

 マイナーリーグの場内アナウンサーも男性のほうが多いが、活躍している女性の場内アナウンサーもいる。その一人がボルチモア・オリオールズ2Aのエイドリアン・ロバーソンさん。場内アナウンスの仕事に携わって16年。2人の高校生のお子さんを持つ「ウグイス母さん」だ。

ロバーソンさん 筆者撮影
ロバーソンさん 筆者撮影

 ロバーソンさんは、今年5月11、12日の2日間、メジャーリーグに「昇格」し、オリオールズのカムデンヤーズで場内アナウンサーを務めた。マイナー2Aのウグイス嬢であるロバーソンさんは2012年にオリオールズの場内アナウンサーのオーディションも受けており、672人から選ばれた控えの場内アナウンサーとしても登録されているのだ。オーディションでは、急な選手交代や場内のアクシデント発生時でも、落ち着いて正確に対応できるかを試すために、口頭だけの指示を聞いて、即座にアナウンスするテストもこなした。

 5月11、12日は母の日の週末で、オリオールズは本拠地にエンゼルスを迎えての3連戦。ちょうど大谷翔平が戦列に復帰したばかりだった。

 ロバーソンさんはいつも選手たちの名前を正確にアナウンスできるように、2試合ほどビデオで見たうえで、広報とともに発音を確認。日本人の「ショーヘイ・オータニ」も、きれいに、聞き取りやすくアナウンスした。エンゼルスが発表している発音記号で予習し、試合前に広報に再度、確認したという。

 実は「ショーヘイ」と似た名前をアナウンスしていたシーズンがあった。

 「日本の選手の名前をアナウンスするのは初めてではありませんよ。私が仕事をしているマイナーのチームには、リョーヘイ・タナカという日本の選手がいたのです」と言う。

 リョーヘイ・タナカ選手とは、石川県小松市出身で、加賀高校からロッテに入団し、その後、オリオールズのマイナーで投げていた田中良平さんである。西武→ロッテの田中靖洋選手の兄でもある。

 マイナーにはスペイン語圏からの選手も多い。英語とは少し異なる名前の発音を確認し、正確に発音できるように準備する習慣が身についている。

 母の日の週末にロバーソンさんがメジャー昇格したのは、彼女が母親でもあるからだ。2人のお子さんが小さいときには、夕方4時ごろまでは公園で遊ばせたりして過ごし、それから近所の信頼できるベビーシッターに子どもを預けて仕事に出かけていたそうだ。「チームの遠征には帯同しないので、遠征中は子どもたちが寝る前に絵本を読んでいましたね」。マイナーリーグは家庭的な雰囲気で、時には球場に子連れ出勤して、アナウンスをした試合もあった。

 お子さんの小・中学生時代は、他のママ友、パパ友とのネットワークを活用。「チームが遠征に出ているときは、私が子どもの友達の送迎も引き受けて、ホームゲームのときは、他のみなさんにお願いしていました」

 子育てしながら、ナイターの場内アナウンスをするのは楽なことではなかっただろう。「でも、野球が好きなんですよね」。ウグイス母さんは、すがすがしく笑った。