Yahoo!ニュース

米国の大学で起こったスポーツブラ問題

谷口輝世子スポーツライター
写真はイメージです。(写真:アフロ)

 スポーツブラを着けて運動するとき、上からシャツを着なければいけないものか。それとも、スポーツブラだけでトレーニングしてよいものか。

 米国ニュージャージー州のローワン大学が、陸上競技の一種であるクロスカントリー部の女子部員たちと、スポーツブラを巡って対立した。

 ことの発端は、女子クロスカントリー部の練習が、男子アメリカンフットボール部の練習と同じ場所で行われたこと。練習場所がかち合ってしまい、揉めているうちに、男子アメリカンフットボール部側から「シャツを着ないで、スポーツブラだけで練習されると、気が散る」と苦情が出た。クロスカントリー部の選手たちは、スポーツブラを着け、シャツを着ないでトレーニングしていた。

 ローワン大学は、明文化された規則はないものの、スポーツブラを着けているときでも、シャツを着て練習するよう、口頭で伝えていたという。アメリカンフットボール部とクロスカントリー部が練習場を巡って揉めた後、大学運動部の統括責任者であるアスレチック・ディレクターが女子部員らと話し合いの場を持った。大学側は改めて、スポーツブラを着けていても、シャツを着て練習するように選手たちに求めた。

 しかし、女子部員側にも言い分はある。一人の選手がブログで次のように反論した。

 「男性の気を散らすために、スポーツブラで走っているわけではない」

 「陸上のエリート選手はクロップトップを着用することを認められている。我々のチームは練習用ユニフォームを支給されていない」

 「女性がチームにいることが問題なのではない。女性がスポーツブラをしていることが問題なのではない。女性の体が問題なのではない。レイプカルチャーが問題」

 スポーツブラの上にシャツを着るようにと、強く求めるのに、レイプを防ぐことには、それほど力を入れていないのではないか、と抗議した。

 ブログでの反論した効果があったのか、最終的に、大学側が全面的に学生側の主張を聞き入れた。米メディアの報道によると「練習着として、シャツなしでスポーツブラを着用することは禁止しない。これは、学校の正式なポリシーとする」と決定した。スポーツブラを、「下着」ではなく、機能を追求した練習ウェアとして認めたということだろう。

 1999年のワールドカップの米国代表だったブランディ・チャスティンはPKを決めた後、ユニフォームを脱ぎ、黒いスポーツブラだけの状態になって喜びを爆発させた。この時の写真は、世界中に報道されて、賛否を巻き起こした。あれから、19年が経ち、スポーツブラの位置づけにも変化が出てきたのかもしれない。この記事を書くにあたって、スポーツブラで写真を検索したところ、上記のようにスポーツブラだけで外を走っている写真が多数あった。タンクトップをクロップドした、短くカットしたものと見なされるようになったのかもしれない。

 グラウンドでの練習がかち合ったことを発端に、アメリカンフットボール部は「スポーツブラで練習されると気が散る」と苦情を言った。喧嘩の売り言葉としては、なんともお粗末な言い草だったのではないか。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事