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投手/歌手(国歌独唱)。パイレーツのスティーブン・ブロートに二刀流の極意を聞く。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 メジャーリーグ、パイレーツの中継ぎ左腕、スティーブン・ブロートが6月19日の試合で国歌を独唱した。

 ブロートは単に歌がうまいだけではない。プロのピッチャーでもあり、プロの歌手でもある。

 2013年のドラフトでオリオールズから11巡目(全体339位)で指名され、レジス大学からプロ入り。2016年7月にメジャーデビューを果たした。レジス大学出身者としては初のメジャーリーガーである。

 ブロートは、国歌独唱のいきさつをこう話した。

 「大学では音楽の勉強をしていたんだ。昨年のシーズン、僕からパイレーツに試合前に国歌を歌わせてくれないか、とお願いしていた。今年のスプリングトレーニング中に球団から“本当に歌いたいのか?”と聞かれたので、“もちろん、本気です”と答えたんだ」

 ブロートは、シーズンオフはカリフォルニアのサンディエゴに住み、バンドのボーカルとしてライブやコンサートに出ているプロの歌手。しかし、球場で歌うのは少々勝手が違ったらしい。

 「ものすごく緊張した。マウンドで投げているときよりも、もっとナーバスな気持ちになってしまったよ。でも、チームのみんなが僕のやりたかったことをサポートしてくれた。楽しく、幸せだった」

 歌手であることと、ピッチャーであることはブロートの身体の中でつながっている。

 「とてもリズミカルだという共通点がある。リズミカルな状態にあること、自分の体を通じて、自分が何をやろうとしているのかを分かっていること。どちらも自分の体をうまくコントロールすることが求められる。似ているところがたくさんあるんだよ」

 マウンドで投げ急いでしまうときは、歌手の引き出しを使う。捕手のフランシスコ・セルベリが、うまく声をかけてくれるそうだ。

 「キャッチャーのセルベリは、僕が投げ急いでいるな、と見抜くのがとてもうまい。そして、僕に、“何か歌を選んで、頭の中で歌え”と言ってくれる。それで僕はリズムを取り戻すんだ。これは本当に大きな助けになっている。だから今、僕はメジャーで投げることができている。自分ではそう思っているんだ」。

 7月30日までの成績は、30試合に登板し、5勝2敗、防御率4.88。素晴らしい成績とは言い難い。しかし、野球だけに専念すれば、もっとよいパフォーマンスができるのではないか、などと考えるのは野暮というものだろう。

 26歳の異業種二刀流。音楽のリズムとピッチングを融合させ、厳しい競争の世界で生き残りをかけている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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