異性の着替える場所の近くで働けますか?メジャーリーグの女性コーチの話

(写真:ロイター/アフロ)

 日本では財務省事務次官のセクシャルハラスメントが報道されている。それを読みながら、性別に関わらず、働きやすい環境とはどういったものだろう、と考えていた。そうこうしているうちに、昨秋に取材したものの、発表する機会のなかった原稿を思い出した。メジャーリーグの女性コーチについてだ。

 昨年10月、ア・リーグの地区シリーズ、インディアンスーヤンキース戦を取材した。第1戦の試合前には恒例のセレモニーがあり、両チームの選手、首脳陣、スタッフが紹介された。インディアンスには複数の女性スタッフがいた。そのひとりがパフォーマンスコーチのシシ・クラークさんだ。

 フルタイムで働く女性コーチという肩書はメジャーリーグ初ではないかと思い、インディアンスの広報に確認した。インディアンスの広報部長は「ユニホームを着たコーチではないので、初の女性コーチとは見なされていないのかもしれない」とのことだった。

 

 クラークさんがメジャーリーグ初の女性コーチかどうかは分からなかったが、重要な仕事を担っていることは分かった。

 パフォーマンスコーチのクラークさんの仕事は、近年、メジャーリーグ各球団が力を入れているメンタルスキルのコーチだ。重圧や不安を取り除くだけでなく、どうすればその選手が持てる力を最大限に発揮できるかを心理面からサポートしている。スポーツ心理の観点から、インディアンスと傘下チームの練習計画作成にも携わっているという。

 クラークさんは仕事上、メディアの取材には応じられないとしたが、インディアンスのクリス・アントネッティ編成本部長が話をしてくれた。「彼女は高いレベルで活躍する人たちのメンタルスキルを助けてきた実績があり、うちのチームでも選手を支えてくれている」と言った。

 大リーグ機構は、監督からスタッフに至るまで、人種や性別に関わらず公平な判断で最適任者を雇用するよう各球団に促している。インディアンスでは、最も球団のために力を発揮できる人を選んだ結果が、クラークさんの採用だったという。

 インディアンスーヤンキースの地区シリーズには女性のマッサージセラピストと、女性のスペイン語通訳もチームに同行していた。

 スタッフらは、選手が着替えをするクラブハウス付近での仕事もある。アントネッティ編成本部長は「彼女たちは自分の仕事ができる場所を見つけており、選手たちも違和感はない。全く問題になっていない」と優秀なスタッフに誇らしげだった。

 メジャーリーグのクラブハウスの近くで働く女性スタッフは、今では珍しくない。女性アスレチックトレーナーたちが活躍している。女性のマッサージセラピストもいる。私の見た限りでは、タイガースやダイヤモンドバックスには女性のアスレチックストレーナーがいるし、カブスには女性のマッサージセラピストがいる。フィリーズにも女性のメンタルスキルコーチが誕生した。

 選手たちと性別が違っていても、スタッフが力を発揮できる環境を球団も整えはじめた。選手たちが着替えるクラブハウスを通過しなくても、仕事ができる動線ができつつある。女性のスタッフたちも性別に関係なく、能力とプロ意識を持って、働く機会と場をつかみ取っている。お互いの職業意識と作業動線が、働きやすさのポイントかもしれない。

 以前にはメジャーリーグでも、女性だからという理由で男性と同じように働くことのできない時代があった。

 球団のスタッフではないが、ニューヨークタイムズなどで記事を書いてきた女性記者のクレア・スミスさんは、1984年のナ・リーグ優勝決定シリーズで、女性だからという理由でクラブハウス内での取材をさせてもらえなかったという。この事件がきっかけとなり、当時のピーター・ユベロスコミッショナーが、取材証が許可されたものは、人種や性別に関係なくクラブハウスでの取材ができることをルールに盛り込んだ。

 今、メジャーリーグの全てのクラブハウスには、メジャーリーグ機構の規則が掲示されている。ハラスメント、いじめの禁止、職業意識を持つことなどが明示されている。女性スタッフがメジャーリーグやその他の男性スポーツの場でも活躍しているのは、規則が設けられたことと、人々の意識の変化の相互作用があったのだろう。

 先人たちが勝ち取ってきたものだ。私もその恩恵を受けている。