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ソフトバンク・川崎宗則の「弟子」に聞く。海を越えて続くムネリンの励ましと教え。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

私はカブス傘下3Aアイオワにいるジェイマー・キャンデラリオ内野手の成績をときどき見ている。もしかしたら、ソフトバンクの川崎も、キャンデラリオの成績をチェックしているのかもしれない。

キャンデラリオは23歳のスイッチヒッター。2016年7月3日にメジャーデビューしたが、このときは5試合に出場しただけでマイナーに落とされた。

今年5月9日、前日の中止でカブス対ロッキーズ戦がダブルヘッダーになったことがきっかけで、キャンデラリオは再びメジャーに昇格した。ダブルヘッダーの2試合目のみベンチ入り登録選手を1人増やすことができるという規則を利用して、26人目の選手になったのだ。

キャンデラリオのメジャー昇格直前のマイナー成績は、打率3割4分、出塁率4割4分3厘、長打率.649と絶好調。カブスのマドン監督はノっているキャンデラリオにチャンスを与えた。

敵地デンバーのクラブハウスでカブスの番記者たちが、マイナーから上がってきたキャンデラリオを囲んだ。その取材が終わったころ、「昨シーズンは川崎選手とアイオワでいっしょにプレーしていたんですよね」と声をかけてみた。

そうすると、キャンデラリオはうれしそうな顔でこんなエピソードを披露してくれた。

「そう、僕はムネといっしょにプレーしていた。僕がメジャーに昇格するというニュースを彼は知っていて、日本からメッセージをくれたんだ。レッツゴー、キャンディ! レッツゴー、キャンディ!メジャーリーグで(他を)圧倒しろ、って。僕から連絡した時には連絡がつかなかった。日本とは時差があるから、ちょうど寝ていたのかもしれないね」。

すでにカブスを離れソフトバンクの一員となった川崎だが、1シーズン、マイナーでともに過ごした若い選手のメジャー昇格のニュースをキャッチし、激励メッセージを送っていたのだ。

キャンデラリオは5月9日の試合では四番・サードで先発して1安打を記録。マドン監督はダブルヘッダーの翌日もキャンデラリオをメジャーにとどめて、翌10日は四番・ファーストで起用。しかし、4打数ノーヒットで2三振。16日のレッズ戦を最後に再びマイナー降格となった。

キャンデラリオは何とかメジャーに定着しようと必死になっているが、まだ、結果を出していない。しかし、川崎の前向きな姿勢、野球についての教えを活かして、再びチャンスをつかむつもりだ。キャンデラリオは「彼からいろいろなことを教えてもらった。特に内野の守備のことはよく話をしたし、試合へ向けてどのように準備していくかも教えてもらった。いつも助けてもらったよ」と言う。

川崎からは日本語も習ったようで、カブスの上原が日本語で励ますと、キャンデラリオはうなずいていた。

昨年、カブスのマイナーでシーズンの大半を過ごした川崎にとって、同じようにメジャー昇格を狙うキャンデラリオはライバルだったとも言える。しかし、川崎は、そのライバルを蹴落とすのではなく、力を発揮できるように助けて、高め合っていた。

それは、ブルージェイズ時代でも同じことだった。川崎は、ポジション争いをしていたライアン・ゴインズ内野手が2015年にメジャーでチャンスをつかんで出場機会が増えていたのを、自分のことのように、祝福していた。ライバルの成功を素直に喜べる川崎の人柄も、多くの選手に愛されている理由のひとつだろう。

そして、この記事をヤフー個人に掲載した翌26日(日本時間27日)、キャンデラリオはメジャーに再昇格した。

若いキャンデラリオには、まだメジャー定着のチャンスは残されている。彼がチャンスをものにする日を、川崎も首を長くして待っているはずだ。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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